Law Practise 民事訴訟法 基本問題7:筆界確定訴訟

第1.設問前段

1. XのYに対する訴訟において、裁判所は認容判決をなしうるか。本件は、筆界確定訴訟であり、Xに当事者適格が認められるかが問題となる。

2. 当事者適格とは、訴訟物たる権利または法律関係について当事者として訴訟を追行し本案判決を求めることができる資格のことであり、当事者適格は何人をしてその名において訴訟を追行させ、また何人に対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決すべきである。

3. したがって、本件のような筆界確定訴訟においては、隣接地の実体法上の所有者に当事者適格が認められ、Yの時効取得によりXの主張する筆界がY所有地内にある場合、原則として当事者適格を喪失したものとみるべきである。

しかし、時効取得で当事者適格喪失となれば、却下判決せざるをえなくなり、それまでの訴訟追行が無駄になる。

そこで、公簿上特定の地番により表示される甲乙両地が相隣接する場合に、乙地の所有者が甲地のうち境界の全部に接続する部分を時効取得したとしても、甲乙両地の各所有者は、境界確定の訴えの当事者適格を失わないものと解すべきである(最判平7・3・7民集49-3-919)。

4. よって、Xは当事者適格を有し、請求認容判決をなしうる

第2.設問後段

1. Yの控訴により、控訴審がアイを筆界とする判決をなしうるか。不利益変更禁止の原則との抵触の有無が問題となる。

2. 第一審判決の取消し・変更は「不服申立ての限度」に限られ(304条)、上訴人の不利益に変更できない(不利益変更の禁止)。

これは、上訴人への不意打ちを防止し、上訴権を確保しようとするものである(当事者主義の発現)。

3. では、以上の原則が筆界確定訴訟にも適用されるか。

(1) 筆界確定訴訟とは、互いに隣接する土地の境界が不明なため争いがある場合に裁判所の判決により境界線を確定することを求める訴訟である。

ここで、筆界とは課税上の単位を画するものであり、市町村の境界ともなる公法上のものとして、私人の自由な処分に委ねられるべきではないから、筆界の確定は裁判所の合目的的な裁量判断によりなされるべきである。

(2) したがって、筆界確定訴訟の法的性質は、裁判により新たに境界線が形成されるという点で形成訴訟だが、形成要件の定めがなく裁判所が自らの合目的的な裁量的判断によって法律関係の形成をする点で実質的には非訟の性質を有する形式的形成訴訟と解すべきである。

(3) その結果、①裁判所は当事者の主張に拘束されず合目的的な判断を示すことができるから、訴状の請求の趣旨に特定の境界線を表示することは要請されず、②表示した場合でも、裁判所はそれに拘束されず、目的的な裁量判断により境界線を確定できることになる。

4. 以上から、裁判所は、原判決を取消し、筆界をアイに定めうる。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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