Law Practise 民法Ⅱ No.10:解除と原状回復・損害賠償

 第1.AのBに対する請求

1.Aの契約解除(570条、566条1項)

Kg:①特定物を目的物とする売買契約の締結

②通常人の通常の注意では発見できない瑕疵の存在

③解除の意思表示

④②では契約の目的を達成できないこと

2.AのBに対する損害賠償請求

(1)Stg:570条に基づく損害賠償請求権()

(2)Kg

①特定物を目的物とする売買契約の締結

②通常人の通常の注意では発見できない瑕疵の存在

③損害の発生及びその額

3.AのBに対する現状回復請求権

(1)Stg:契約解除に基づく現状回復請求権

(2)Kg

①契約の締結

②金員の交付

③解除事由

④ 解除の意思表示

(3)Bの反論:Bの現状回復請求との同時履行の抗弁(546条、533条)

4.AのBに対する利息請求(545条2項)

(1)Stg:545条2項に基づく利息請求権

(2)Kg

①-④上記

⑤金員の交付から一定期間が経過

(3)Bの反論:

第2.BのAに対する請求

1.BのAに対する現状回復請求権

(1)Stg:契約解除に基づく現状回復請求権

(2)Kg:Bの利用利益請求との同時履行の抗弁(546条、533条)

①契約の締結

②目的物の引渡し

③Aによる契約解除

(3)Aの反論:危険負担(債権者主義・534条)の援用

2.BのAに対する使用利益返還請求

(1)Stg:545条2項に基づく使用利益請求権

(2)Kg

①契約の締結

②目的物の引渡し

③Aによる契約解除

④目的物の交付から一定期間経過

⑤利用利益の価額

 

 

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Law Practise 民事訴訟法 基本問題38:和解契約の解除  

1. Xは、XY間の訴訟上の和解を解除しうるか。

(1) 訴訟上の和解は、和解調書に記載されると「確定判決と同一の効力」を生じるから(267条)、これを債務名義として強制執行をすることが可能である(民事執行法22条7号)

(2) また、裁判上の和解も和解契約である以上、解除(民法541条)することは可能である。

   もっとも、裁判上の和解が「確定判決と同一の効力」を有することから、解除が既判力により遮断されないかが問題となるも、既判力は事実審の口頭弁論終結時における判断(民事執行法35条2項参照)につき生じ、Yに和解条項の不履行があっても、それは 和解後の権利変動だから既判力により遮断されない。

(3) したがって、Xは、XY間の訴訟上の和解を解除しうる。

2. では、解除の主張はいかなる方法によるべきか。

(1) まず、①新訴提起の方法によることが考えられる。この場合、訴訟資料は利用できないが、審級の利益は確保できるという利点がある。

   もっとも、これによると、解除権行使の効果として、和解によって生じていた訴訟終了効も消滅すると(民法545条1項)、重複起訴の禁止(142条)に抵触しないかが問題となるところ、訴訟が訴訟上の和解によって終了した場合、単に和解契約に基づく私法上の権利関係が消滅するのみであって、和解によって終了した訴訟が復活するものではないと解すべきであり、重複起訴の禁止に抵触しない。

(2) また、②期日指定申立て(93条1項)の方法によることもが考えられる。この場合、旧訴訟資料の利用が可能であり、訴訟経済上も妥当である。しかし和解が上告審でなされた場合、審級の利益を損なうという欠点もある。

(3) 以上のように、①②のいずれの方法にも一長一短があり、両方の方法を許し、当事者の選択に委ねるべきであると解する。

   そこで、Xは、①または②の方法により裁判上の和解の解除の主張が可能である。

 

 

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Law Practise 民法Ⅱ No.9:履行不能と損害賠償の範囲

1.AのBに対する請求

(1)Stg履行不能に基づく損害賠償請求権(填補賠償)

(2)Kg

契約の締結

履行不能

➡社会通念に従って判断:Cに現実の引渡し(対抗要件具備・178条、182条1項)

損害の発生

「特別の事情」(4162)が債務者に予見可能であったこと

➡中間最高価格(1200万円)or 口頭弁論終結時(現在時)の時価(950万円)

2.Bの反論:価格の騰貴は履行不能後 →通常損害(416条1項)の範囲にとどまる。

  ➡契約当時の時価(600万円)or 処分時の時価(900万円)の限度

3.損害額の算定

(1)基準

ⅰ.原則:履行不能時の時価(通常損害・416条1項)

ⅱ.履行不能後の価格の騰貴

不能後の価格が高騰することを債務者が予見しながら履行不能となった場合騰貴した現在の価格(騰貴するまでの前に処分したであろうと予想される場合を除く)

価格高騰時転売しえたのが確実であったような場合中間最高価格

(3)  本件において、Aのこうむった損害額は原則として処分時である2007年2月5日現在の900万円とすべきである。しかし、2006年秋以降本件ギターの価格は高騰し、このことは当事者にも予見可能であった。もっとも、Aはギターの収集家であり、Aが本件ギターを入手したとしても価格高騰時に転売したことが確実であるともいえない。

ところで、Aの都合で本件売買契約の履行期が変更されていることが結論に影響を及ぼすかについても検討すると、本件売買契約の履行期は2006年9月1日から、2007年2月1日に変更されたものであるが、Bが本件ギターをCに処分したのは2007年2月5日であり、いずれせよ履行期後である。また、変更についてABは合意をしているから、Aが一方的に変更させたという事情も見受けられず、この点は結論に影響を与えるものではない。

4. よって、Bは、口頭弁論終結時の時価である950万円について、損害賠償義務を負う。

 

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Law Practise 民事訴訟法 基本問題37:訴訟上の和解の効力

1. Xは、XY間の訴訟上の和解が錯誤により無効であることを主張しうるか。訴訟上の和解が和解調書に記載されると、「確定判決と同一の効力」(267条)が生じるとされるところ、既判力も含まれるかが、問題となる。

(1) 法文上「確定判決と同一の効力」とされ(267条)、紛争解決の実効性を高める必要もあることから、原則として既判力生じると解する。

   もっとも、訴訟上の和解は当事者の意思に基づく自主的紛争解決手段であり、裁判所の関与が十分でなく、再審手段によってのみ無効を争えるとすると、当事者に酷な結果も生じうる。

   そこで、和解が実体法上の暇疵により無効な場合、例外的に既判力は生じず、無効主張も許されると解すべきである。

(2) それでは、Xに「法律行為の要素に錯誤」(民法95条)があったといえるか。

   本件において、Xは甲土地自体を取り違えていたわけではなく、甲土地に対する行政上の規制の有無という物の性状について錯誤がある場合である。物の性状につき、表意者が特に意思表示の内容とし、取引の観念、事物の常況からみて意思表示の主要部分をなす程度のものと認められるときは、法律行為の要素となる(大判大6・2・24民録23-284)。

   そして、Xは甲土地にテナントビルを建設する予定である旨をYに明示し交渉しており、そのことがXの和解の意思表示をなすと認められ、法律行為の要素となると解される。

(3) よって、Xの訴訟上の和解に錯誤が認められ、訴訟上の和解は無効であり、既判力は生じない。

2. では、Xは、訴訟上の和解の無効をどのように主張するか。

まず、期日指定申立て(93条1項)の方法によることが考えられる。旧訴訟資料の利用が可能であり、訴訟経済上も妥当である。しかし和解が上告審でなされた場合、審級の利益を損なうという欠点もある。

次に、新訴提起の方法によることが考えられる。この場合、訴訟資料は利用できないが、審級の利益は確保できる。

このように、和解締結過程は事件により異なり、その効力をめぐる紛争も和解内容も異なり、いずれの方法が当事者救済につながるかは一義的に明らかではない。そこで、両方の方法を許し、当事者の選択に委ねるべきであると解する。

したがって、Xは、①期日指定の申立てまたは②和解無効確認の訴え等の新訴提起により錯誤無効の主張が可能である。

 

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Law Practise 民法Ⅱ No.8:種類債務の履行の提供と受領遅滞

1.Xの解除の可否

Kg:①契約の締結

②付随義務違反(受領義務)

③②によって契約目的を達成できないのと同程度の不利益をこうむったこと、または信義則違反

④解除の意思表示

2.XのYに対する代金支払請求

(1)Stg:製作物供給契約に基づく代金支払請求権

(2)Kg:製作物供給契約の締結

(3)Yの反論:履行不能(目的物の滅失)

ア.Xの再反論1:危険負担の債権者主義(代金買主負担)

⇒特定の有無(534Ⅱ、401Ⅱ)→特定なし

イ.Xの再反論2:「債権者の責に帰すべき事由」(536Ⅱ)

⇒受領遅滞(413)→債務者の責任軽減

 

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Law Practise 民事訴訟法 基本問題36:訴えの取下げ・再訴の禁止

第1.再訴の可否

1. Xは、Yに対する控訴係属中、第1審の終局判決後に訴え取り下げた後、再度訴えを提起している。かかる訴えの提起は、再訴の禁止(262条2項)に抵触しないか。

2. 以下、Xの再訴が「同一の訴え」にあたらないかについて検討する。

(1) 再訴禁止効の趣旨は、終局判決後に訴えを取り下げることにより裁判を徒労に帰せしめたことに対する制裁という点と同一紛争を蒸し返して訴訟制度をもてあそぶような不当な事態の生起を防止する点にあると解され(折衷説)、「同一の訴え」とは、①単に当事者及び訴訟物を同じくするだけではなく、②訴えの利益または必要性の点についても事情を同じくする訴えを指す(最判昭52・7・19民集31-4-693)と解すべきである。

(2) 本件において、①前訴と後訴は同一の債権に基づく貸金返還請求訴訟であり、当事者及び訴訟物を同じくする。しかし、②Xが旧訴を取り下げたのはYが貸金債務の返還を認めたからであり、再度訴えを提起したのは取下げ後にYが態度を変化させたことで新たに訴えの必要性が生じたためであり、Xの再訴は当事者及び訴訟物は同じくするが、訴えの利益、必要性の点については旧訴と事情事を異にする

(3) したがって、「同一の訴え」に該当しない。

3. よって、再訴は再訴の禁止(262条2項)に抵触しない。

第2.参考:Yが返済しないことを理由とする錯誤無効主張の可否

1. Xは、訴えの取下げの意思表示につき錯誤無効(民法95)の主張をすることをなしうるか。訴えの取下げという訴訟行為に私法の意思表示についての規定を適用することの可否が問題となる。

2. 確かに訴訟法においては手続安定の要請が重要である。とするならば、手続の安定を図るべく、取下げの撤回は許されないようにも思われる。

しかし訴えの取下げは原告の意思を基礎とするものであり、その意思に暇疵があれば訴えの取下げを正当化する基礎が欠ける。また、訴えの取下げはそれを前提として手続が進められることがない以上、無効・取消を認めても手続の安定を害することにはならない。

したがって、訴えの取下げに私法の意思表示についての規定を適用してもよいと考える。

3. よって、本問でも、Xは訴えの取下げにつき錯誤無効を主張することができると解する。

 

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Law Practise 民法Ⅱ No.7:特定物売買と手付け

1.Xの請求

(1)Stg:売買契約に基づく土地引渡請求権及び所有権移転登記請求権

(2)Kg:売買契約の締結

2.Yの反論

(1)手付倍返しによる解除

(2)Xの再反論

ア.手付けの性質:本条項は違約手付け

(ア)原則:解約手付(557Ⅰ)

⇒but:①契約書に違約の場合には手付の没収または倍返しをするという条項があっても、それだけで解約手付でないとはいえない。(最判昭24・10・4民集3-10-437)

②解約手付の性質を有するか否かについて当事者の認識に齟齬がある場合、合理的意思解釈により決する

(イ)①市販の契約書、②Xが特に気をとめていなかった

(ウ)解約手付の趣旨を含む ⇒①履行の着手前は解約手付、②履行の着手後は違約手付として機能

イ.履行の着手:「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」(557Ⅰ)

⇒解約手付の授受された売買契約において、当事者の一方は、自ら履行に着手した場合でも、相手方が履行に着手するまでは、557条1項に定める解除権を行使することができる。(最大判昭40・11・24民集19-8-2019)

⇒「履行に着手」:①客観的に外部から認識可能な形で履行行為の一部 or ②履行の提供に欠くことのできない前提行為(最大判昭40・11・24民集19-8-2019)

⇒判断基準:行為の態様、債務の内容、履行期が定められた趣旨を総合的に勘案(最判平5・3・16民集47-4-3005)

ウ.現実の提供なし:「償還」(557Ⅰ)

 

 

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