Law Practise 民事訴訟法 基本問題37:訴訟上の和解の効力

1. Xは、XY間の訴訟上の和解が錯誤により無効であることを主張しうるか。訴訟上の和解が和解調書に記載されると、「確定判決と同一の効力」(267条)が生じるとされるところ、既判力も含まれるかが、問題となる。

(1) 法文上「確定判決と同一の効力」とされ(267条)、紛争解決の実効性を高める必要もあることから、原則として既判力生じると解する。

   もっとも、訴訟上の和解は当事者の意思に基づく自主的紛争解決手段であり、裁判所の関与が十分でなく、再審手段によってのみ無効を争えるとすると、当事者に酷な結果も生じうる。

   そこで、和解が実体法上の暇疵により無効な場合、例外的に既判力は生じず、無効主張も許されると解すべきである。

(2) それでは、Xに「法律行為の要素に錯誤」(民法95条)があったといえるか。

   本件において、Xは甲土地自体を取り違えていたわけではなく、甲土地に対する行政上の規制の有無という物の性状について錯誤がある場合である。物の性状につき、表意者が特に意思表示の内容とし、取引の観念、事物の常況からみて意思表示の主要部分をなす程度のものと認められるときは、法律行為の要素となる(大判大6・2・24民録23-284)。

   そして、Xは甲土地にテナントビルを建設する予定である旨をYに明示し交渉しており、そのことがXの和解の意思表示をなすと認められ、法律行為の要素となると解される。

(3) よって、Xの訴訟上の和解に錯誤が認められ、訴訟上の和解は無効であり、既判力は生じない。

2. では、Xは、訴訟上の和解の無効をどのように主張するか。

まず、期日指定申立て(93条1項)の方法によることが考えられる。旧訴訟資料の利用が可能であり、訴訟経済上も妥当である。しかし和解が上告審でなされた場合、審級の利益を損なうという欠点もある。

次に、新訴提起の方法によることが考えられる。この場合、訴訟資料は利用できないが、審級の利益は確保できる。

このように、和解締結過程は事件により異なり、その効力をめぐる紛争も和解内容も異なり、いずれの方法が当事者救済につながるかは一義的に明らかではない。そこで、両方の方法を許し、当事者の選択に委ねるべきであると解する。

したがって、Xは、①期日指定の申立てまたは②和解無効確認の訴え等の新訴提起により錯誤無効の主張が可能である。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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