Law Practise 商法 No.41:株主代表訴訟

1. Xは、株主代表訴訟(847条3項)でYの任務懈怠責任(423条1項)を追求しうるか。

2. Xは、株主代表訴訟提起に先立ち、Aに対し、Yへの「責任追及等の訴え」提起を請求する必要があるところ(847条1項)、提訴請求が不適法であれば、訴えはふて法却下される(訴訟要件)。

(1)  847条1項は、「株式会社に対し」提訴請求をなすものとする。しかし、Aは、監査役設置会社であり、監査役設置会社では提訴請求は監査役に対してなすべきこととなる(386条2項1号)。

(2) 本件において、Xは代表取締役に対して行なっていることから、その適法性が問題となるが、取締役において、提訴請求書の記載内容を正確に認識した上で当該役員等に対する訴訟を提起すべきか否かを自ら判断する機会があったといえるときには、Xが提起した代表訴訟を不適法として却下することはできない(cf.最判平21・3・31民集63-3-472)と解すべきである。

(3) したがって、提訴請求は適法であり、Xの提訴は適法である。

3. 株主代表訴訟は、「責任追及等の訴え」(847条1項)について認められるところ、その対象である「役員等…の責任」について、会社法上の債務に限られる(限定債務説)との反論がYからなされることが考えられる。

  しかし、取締役相互間又は取締役と監査役との間の特殊な関係に基づく会社の提訴憮怠の可能性は、発生原因にかかわらず、一切の債務について存在するのであり、会社法が取締役の地位に基づいて取締役に負わせている厳格な責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれる(全債務説・最判平21・3・10民集63-3-361)と解すべきである。

4. また、AのYらに対する請求権はすでにDに譲渡されていることから、Xは請求できないとの反論がYからなされることが考えられる。

しかし、取締役に対する責任追及を回避する目的で取締役に対する損害賠償請求権の譲渡が行われた場合には、その譲渡は、法の趣旨を潜脱するものとして無効となると解すべきところ、株主代表訴訟が提起され、またはその提起が予定されている場合においては、特段の事情のない限り、その譲渡は責任追及を回避する目的でされたものと推認される(東京地判平17・5・12金融法務1757-46)と解すべきである。

  本件においても、Xより提訴請求がAに対し有効になされており、Xの提訴が十分に予想される状況にあったといえ、AがYに対する責任追及回避が目的であったことが推認される。

5. よって、Xの請求は認められる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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