Law Practise 民事訴訟法 発展問題15:将来給付の増額請求(確定判決の変更の訴え)
1. Xは、前訴(賃料相当額の支払請求)の勝訴判決確定後、現時点での相当賃料相当額と前記認容額との差額を追加請求(後訴)しているが、かかる後訴請求は、既判力に抵触しないか。
2. ここで、既判力とは、確定判決の判断内容の後訴に対する拘束力であり、判決主文で示された訴訟物たる権利・法律関係についての判断にのみ生じるのが原則である(114条1項)。
その趣旨は、①当事者間の紛争処理としては、訴訟物たる権利・法律関係についての判断に既判力を認めれば足りるし、②訴訟物たる権利・法律関係について は当事者から十分な攻撃防御を期待しうるから、手続保障充足による自己責任を問いうる点に求められる。
3. 本件において、前訴の訴訟物は損害賠償請求権(賃料相当額月額20万円)であり、後訴の訴訟物は損害賠償請求権(相当賃料と認定賃料との差額30万円)であり、原因事実および被侵害利益を共通にするものであるから、その賠償の請求権は1個であり、その両者の賠償を訴訟上あわせて請求する場合にも、訴訟物は1個であると解すべきであり(最判昭48・4・5民集27-3-419)、これを前提とすると後訴請求は前訴の既判力に抵触するようにも思われる。
しかし、土地明渡に至るまで継続的に発生すべき一定の割合による将来の賃料相当損害金についての所有者の請求は、当事者間の合理的な意思並びに借地法12条の趣旨とするところに徴すると、土地明渡が近い将来に履行されるであろうことを予定して、それに至るまでの右の割合による損害金の支払を求めるとともに、将来、不法占拠者の妨害等により明渡が長期にわたって実現されず、事実審口頭弁論終結後の前記のような諸事情により認容額が適正賃料額に比較して不相当となるに至った場合に生ずべきその差額に相当する損害金については、主張、立証することが不可能であり、これを請求から除外する趣旨のものであることが明らかであるとみるべきであり、これに対する判決もまたそのような趣旨のもとに右請求について判断をしたものというべきであってその後前記のような事情によりその認容額が不相当となるに至つた場合には、その請求は一部請求であったことに帰し、右判決の既判力は、右の差額に相当する損害金の請求には及ばない(最判昭61・7・17民集40-5-941)。
4. したがって、Xの後訴は前訴の既判力に抵触せず、許される。