Law Practise 民事訴訟法 基本問題32:一部請求と残部請求

1. Xが3000万円の損害賠償請求権の一部である500万円について請求することは、訴訟物の特定について当事者が自由に決定できるとする処分権主義(246条)から、当然に認められる。

2. では、Xは、上記一部請求の認容判決確定後、Yに対して、残部2500万円の追加請求の訴えを提起しうるか。

前述の処分権主義、および、訴訟費用に乏しい原告に試験訴訟を認める必要性から、訴訟物を-部と解し、残部請求を認めるべきとも思える。しかし、これを常に認めると、被告の応訴の負担や審理の重複・訴訟経済の点で妥当でない。

そこで、両者の調和の観点から、一個の債権の数量的な一部である旨明示されている場合には、訴訟物は明示された一部に限定され、当該一部請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばないと解するべきである(最判昭37・8・10民集16-8-1720)。

3. では、本件において、Xが一部請求について明示しているか否か明らかでないことから、以下、場合を分けて検討する。

(1) まず、一部請求について明示がある場合、前訴の訴訟物は明示された一部のみに限られ、残部に既判力は及ばない。

したがって、、残部(2500万円)の請求は既判力により遮断されない。

(2) 次に、一部請求について明示がない場合、前訴の訴訟物は損害賠償債権全額に及ぶから、残部にも既判力が及ぶ。

したがって、残部(2500万円)の請求は既判力により遮断される。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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