Law Practise 商法 No.9:全部取得条項付種類株式

第1.設問(1)

1.Xの地位

(1) Y社は、種類株式発行会社でない。しかし、このような会社でも、①種類株式発行のための定款変更決議(108条1項7号、466条、309条2項11号)、②取得価額決定方法(171条1項1号)を定める定款変更決議(108条2項7号、466条、309条2項11号)、③取得決議(171条1項、309条2項3号)を経れば、全部取得条項付種類株式を利用することができる。

 なお、上記②の決議により既発行の株式を全部取得条項付種類株式とする際には、④定款変更を行う種類株式等に係る種類株主総会決議を要する(466条、309条2項1号)。

(2) Y社の【1】決議は上記①②③に、【2】決議は④に対応する。そして、Y社は同一の総会で①②③の決議を行っているが適法である。いわゆる100パーセント減資として利用する場合に迅速に行う必要があるからである。

(3) 上記①~④決議により、Y社はAの完全子会社となる。XらはY社から締め出され、Xらの株式は単位未満株式となり、金銭処理されることになる(234条1項2号)。

2.決議の効力について争うことの可否

(1)裁判所に対する価格の決定の申立て

ア.Xらとしては、裁判所に対する価格の決定の申立て(172条)をすることが考えられる。

イ.172条は「取得の価格」と規定しているのみであるが、「公正な価格」(785条1項等)との対比から、裁判所が、全部取得条項付種類株式の取得の公正な価格を定めるにあたっては、取得日における客観的価値に加え、強制的取得により失われる今後の株価上昇に対する期待を評価した額を考慮するのが相当である(東京高決平20・9・12金融商事1301-28、最決平21・5・29金融商事1326-35)。

ウ.したがって、これによりXらには金銭面での一定の救済が与えられる。

(2)決議自体を争う場合

ア.株主総会等の決議の取消しの訴え(831条)

 XらはAがYの議決権を行使したことにより、Aが完全親会社、Yが完全子会社とする決議が 成立したことが、「特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされた」(831条1項3号)にあたるとして、株主総会等の決議の取消しの訴えを提起することが考えられる。

イ.決議無効の訴え(830条2項)

 本件株主総会決議により、取得対価の設定が普通株式1株につきA種類株式4万4096分の6を交付するとされているという取得対価の不当性が株主平等原則に違反し、決議内容の法令違反にあたるとして、株主総会等の決議無効の訴えを提起することが考えられる。

第2.設問(2)

 Xらは取得日以降株主としての資格を失っており、原告適格が認められるかが問題となるが、831条1項柱書後段は株主総会等の決議の取消しにより「株主」となる者にも原告適格が認められる。

 したがって、Xらは原告適格を失わない。

 

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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