Law Practise 基本問題33:既判力の時的限界

1. Xは、前訴判決確定後に取消権を行使して、所有権移転登記抹消登記請求訴訟(以下、後訴)を提起しうるか。既判力の基準時後の形成権行使の可否が問題となる。

2. ここで、既判力とは、確定判決主文中の判断について生じる拘束力・通用力をいい(114条1項)、①当事者は前訴と矛盾する主張することができずなくなり(消極的効力)、②裁判所は前訴を前提として判断しなければならなくなる(積極的効力)という効力を有する。

これは、当事者に十分な手続保障が与えられていたことを正当化根拠として、紛争の終局的解決を図り、また、裁判がみだりに覆されないという当事者の信頼を保護するために認められたものである。

そして、私法上の権利関係は常に変動するところ、既判力は事実審の口頭弁論終結時における判断につき生じる(民事執行法35条2項参照)。なぜなら、当事者はこの時点まで事実・証拠を提出でき、裁判所はこれに基づいて判決を下すからである。

したがって、それ以前に提出しえた事実・証拠・攻撃防禦方法は、既判力によりそれ以後提出できなくなるのが原則である(遮断効)。

もっとも、既判力の正当化根拠に照らし、当事者にその攻撃防禦方法の提出の機会が実質的に保障されていないときには、例外的に基準時後の攻撃防禦方法の提出が許されると考える。

3. 本件では、判決確定後の取消権の行使が問題となるところ、取消権は訴訟物たる権利に付着した暇疵であり、その行使の効果として不利益な結果は生じない以上、提出の機会が実質的に保障されていたといえる。

4. したがって、既判力の遮断効によりYの後訴は認められない(最判昭55・10・23民集34-5-747参照)。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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