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Law Practise 民事訴訟法 基本問題27:文書提出義務(2)

1. XのY銀行に対する損害賠償請求訴訟において、Xは、自己査定文書(以下、本件文書)につき、文書提出命令の申立て(219条後段)を行っているところ、かかる申立ては、認められるか。

2. これに対し、Yより「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(自己使用文書・220条4号ニ)に当たるとの反論をすることが考えられる。そこで、本件文書が自己使用文書にあたるかが問題となる。

(1) 文書提出命令は、文書提出義務の存在が前提となるところ、法は、一般的提出義務(220条4号)を定め、一定の場合(220条4号イ~ニ)に提出義務を免れるとする。

(2) 本件文書が自己使用文書(220条4号ニ)に当たるかが問題となるところ、自己使用文書とは、①文書がその作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって(外部非公開性)、②開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には(不利益性)、③特段の事情がない限り、自己使用文書にあたる(最決平11・11・12民集53-8-1787)。

(3) 自己査定文書は、金融機関が債権の資産査定を行う前提となる債務者区分のために作成した資料であり、外部の利用が予定されているために、4号ニ所定の文書に当たらない(最決平19・11・30民集61-8-3186)。

3. また、Yは、本件文書が「職業の秘密に関する事項」を含む文書(220条4号ハ、197条1項3号)に当たると反論をすることも考えられる。

(1) ここで、「職業の秘密に関する事項」(以下、職業の秘密)とは、その事項が公開されると当該技術の有する社会的価値が下落し、これによる活動が困難になるもの、または当該職業に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になるものをいう(最決平12・3・10民集54-3-1073)。

   もっとも、ある秘密が上記の意味での職業の秘密に当たる場合でも直ちに証言拒絶が認められるとするのは妥当ではなく、そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。そこで、保護に値する秘密であるかどうかは、秘密の公表 によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるべきである(利益衡量説、最決平18・10・3民集60-8-2647)

(2) 本件文書(自己査定文書)には、①公表することを前提として作成される貸借対照表及び損益計算書等の会計帳簿に含まれる財務情報、②金融機関が守秘義務を負うことを前提に顧客から提供された非公開の同社の財務情報、③Yが外部機関から得た顧客の信用に関する情報及び④顧客の財務情報等を基礎として金融機関自身が行った財務状況、事業状況についての分析、評価の過程及びその結果並びにそれを踏まえた今後の業績見通し、融資方針等に関する情報が含まれる。

(3) まず、①の部分については、本来公開が予定されており、職業の秘密にあたらない。

(4) 次に、②の本件非公開財務情報は手続開始以前のXの信用状態を対象とする情報にすぎないから、これが開示されてもXの受ける不利益は通常は軽微なものと考えられること、YらはXの再生債権者であって、民事再生手続の中で本件非公開財務情報に接することも可能であることなどに照らせば、本件非公開財務情報は、それが開示されても、Xの業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるとはいえないから、職業の秘密には当たらない。

(5) また、③の部分については、顧客が開示義務を負う顧客情報については、金融機関は、訴訟手続上、顧客に対し守秘義務を負うことを理由としてその開示を拒絶することはできず、同情報は、金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として、職業の秘密として保護されるものではない

(6) さらに、④の部分については、これが開示されれば当該顧客が重大な不利益を被り、当該顧客の金融機関に対する信頼が損なわれるなど金融機関の業務に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になるものといえるから、金融機関の職業の秘密に当たると解される。

しかし、前記のとおり民事再生手続開始決定前の財務状況、業務状況等に関するものであるから、これが開示されてもXが受ける不利益は小さく、抗告人の業務に対する影響も通常は軽微なものであると考えられる。一方、本案訴訟は必ずしも軽微な事件であるとはいえず、また、本件文書は、X・Y間の紛争発生以前に作成されたもので、しかも、監督官庁の事後的検証に備える目的もあって保存されたものであるから、Xの経営状態に対する抗告人の率直かつ正確な認識が記載され、本案訴訟の争点を立証する書証としての証拠価値は高く、これに代わる中立的・客観的な証拠の存在はうかがわれない。

したがって、④の部分は、Xの職業の秘密には当たるが、保護に値する秘密には当たらない

4. よって、Xの申立ては認められ、裁判所は、本件文書の提出命令をなしうる。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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