Law Practise 民事訴訟法 基本問題25:証言拒絶事由

1. XのY(放送局)に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟(以下、本件事件)において、Yの反論を立証するために申請されたBは、証人尋問において取材内容の証言を拒絶することが許されるか。取材内容が「職業の秘密に関する事項」(197条1項3号)に該当するかが問題となる。

2.証人義務・証言拒絶

(1) 民訴法は、「何人でも証人として尋問することができるとして、公法上の一般義務として証人義務を認めている」(190条)。

しかし、真実発見よりも証人の利益を優先すべき場合もあることから、197条1項各号は例外的に証言拒絶できる事由を列挙しているが、本件の取材源に係る事項が、「技術又は職業の秘密に関する事項」(197条1項3号)の該当性が問題となる。

(2) ここで、「技術又は職業の秘密に関する事項」とは、その事項が公開されると当該技術の有する社会的価値が下落し、これによる活動が困難になるもの、または当該職業に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になるもの(最決平12・3・10民集54-3-1073)を指すところ、報道関係者の取材源は開示されると、報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので、取材源の秘密は職業の秘密に当たる。

(3) もっとも、ある秘密が上記の意味での職業の秘密に当たる場合でも直ちに証言拒絶が認められるとするのは妥当ではなく、そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。そこで、保護に値する秘密であるかどうかは、秘密の公表 によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるべきである(利益衡量説、最決平18・10・3民集60-8-2647)。

そこで、取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、 報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきである(最決平18・10・3民集60-8-2647)。

本件報道は、公共の利害に関する報道であることは明らかであり、その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れるようなものであるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情はうかがわれず、一方、本件事件は、株価の下落、配当の減少等による損害の賠償を求めているのであり、社会的意義や影響のある重大な民事事件であるかどうかは明らかでなく、また、本件基本事件はその手続がいまだ開示(ディスカバリー)の段階にあり、公正な裁判を実現するために当該取材源に係る証言を得ることが必要不可欠であるといった事情も認めることはできない。

(4) したがって、本件の取材源に係る事項は、197条1項3号に該当する。

3. よって、Bは、本件の取材源に係る事項についての証言を拒むことができる。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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