Law Practise 民事訴訟法 基本問題17:弁論主義(1)

1. XのYに対する共有持分権に基づく所有権移転登記請求訴訟において、裁判所が当事者の主張していないAB間の死因贈与事実を認定することは、弁論主義違反とならないか。

2. ここで、弁論主義とは裁判の基礎となる事実の確定に必要な資料(訴訟資料)の収集・提出を当事者の権能かつ責任とする建前であり、私的自治の訴訟上の発現形態であって、民事訴訟の本質にその根拠を有し(本質説)、当事者の意思の尊重および不意打ち防止の機能を有する。

このことから、当事者の主張していない事実を裁判所は判決の基礎とすることはできないという弁論主義の第1テーゼが導かれる。

なお、弁論主義の第1テーゼの対象となる事実は、当事者の意思の尊重、不意打ち防止の見地から訴訟の勝敗に直結する事実たる主要事実を弁論主義の対象とすれば十分であり、原則として主要事実のみが弁論主義第1 テーゼの対象となる。

3. 所有権移転の経緯は主要事実であると解されるところ、本件において、Xの主張事実は①D元所有、②DA間の売買、③AX間の相続の事実であり、Yの主張事実は①D元所有、②DB間の売買、③BC間の相続の事実である。これに対し、裁判所の認定事実は①D元所有、②DA間の売買、③AB間の死因贈与、④BC間の相続の事実であり、③のAB間の死因贈与の事実は両当事者とも主張してはいない事実である。

4. よって、裁判所がこれを認定することは弁論主義違反となり、裁判所はこれを理由に棄却判決をすることはできない。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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