Law Practise 商法 No.46:分配可能額を超える剰余金の配当の効力

第1.株主に対する請求

1. X社のY1に対する462条1項に基づく金銭支払請求は認められるか。

剰余金の配当は、配可能額を超えてはならず(461条1項柱書・同8号)、会社が分配可能額を超えて剰余金配当をした場合、違法配当として、会社は、株主及び業務執行者等に対し株主が交付を受けた金銭等に相当する金銭を支払う義務を負う(462条1項)。

  X社は、分配可能額が5000万円しかないにもかかわらず、剰余金配当として1株150円、総額1億5000万円を株主に支払っている。また、Y1はX社より1500万円の上記剰余金配当を受け取った株主であり、「金銭等の交付を受けた者」に当たる。

  ここで、「金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務」とあることから、請求額は交付を受けた金銭であり、適法な剰余金配当との差額ではない。

  したがって、X社のY1に対する1500万円の支払請求は認められる。

2. では、X社のY2に対する462条1項に基づく金銭支払請求は認められるか。

Y2は、X社より150万円の剰余金配当を受けているが、違法な剰余金配当であることについて善意であることから、善意の株主は業務執行者等からの求償請求に応ずる義務を負わないとする463条1項によりこのような善意の株主は「金銭等の交付を受けた者」(462条1項)に含まれるかが問題となる。しかし、同項は、自ら違法な行為をした取締役等の善意の株主に対する求償を禁反言の法理から禁じる趣旨に過ぎず、「金銭等の交付を受けた者」(462条1項)に善意の株主も含まれると解する。

3. したがって、X社のY2に対する50万円の金銭支払請求は認められる。

第2.取締役に対する請求

1. X社のY3に対する462条1項に基づく金銭支払請求は認められるか。

(1) Y3は、会社の計算書類に虚偽の額の剰余金を計上させており、分配可能額を超える配当に関する「総会議案提案取締役」(462条1項6号イ)に当たる。

(2) これに対し、Y3は、支払義務を免れるために職務を行うについて注意を怠らなかったことを反論として主張することが考えられる(462条2項)。

しかし、Y3は粉飾決算の当事者であり、かかる主張は認められない。

(3) したがって、X社のY3に対する金銭支払請求は認められる。

2. X社のY4に対する462条1項に基づく金銭支払請求は認められるか。

(1) Y4は、当該議案を承認した取締役会決議に賛成した取締役であり、「行為に関する職務を行った業務執行者」(462条1項柱書)に当たる。

(2) これに対し、Y4は粉飾決算について善意であることから、支払義務を免れるために職務を行うについて注意を怠らなかったことを反論として主張することが考えられる(462条2項)。

(3) したがって、Y4が上記証明に成功しなかったた場合、X社のY4に対する金銭支払請求は認められる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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