Law Practise 民事訴訟法 基本問題30:争点効

1. Yが第1訴訟の控訴審で行った第2訴訟確定判決においてXの主張する詐欺の事実が排斥されているとの主張は認められるか。第2訴訟の確定判決の既判力が第1訴訟に及ぶかが問題となる。

2. ここで、既判力とは、確定判決の判断内容の後訴に対する拘束力であり、判決主文で示された訴訟物たる権利・法律関係についての判断にのみ生じ、判決理由中の判断には生じないのが原則である(114条1項)、

その趣旨は、①当事者間の紛争処理としては、訴訟物たる権利・法律関係についての判断に既判力を認めれば足りるし、②訴訟物たる権利・法律関係について は当事者から十分な攻撃防御を期待しうるから、手続保障充足による自己責任を問いうる点に求められる。

本件第1訴訟の訴訟物は所有権移転登記抹消請求権であり、第2訴訟の訴訟物は建物明渡請求権であることから、両者の訴訟物は異なる。また、Xの主張する詐欺の事実は判決理由中の判断であり、これについて既判力は生じない。さらに、本件建物の所有権の帰属については所有権確認の訴え(以下、第3訴訟)を提起すれば足り、第2訴訟の確定判決の既判力を第1訴訟に及ぼす必要はない。

3. もっとも、両訴訟の判決によってはXが本件建物の占有を有し、Yが同建物の登記を有するという事態となり、紛争の解決とはならないし、第3訴訟によってもさらなる時間を費やすばかりか、確認判決は執行力を有しないから第4訴訟を提起せざるを得ないこととなる。

そこで、本件建物の所有権がX・Yのいずれに帰属するかは、両訴訟に共通する争点であり、理由中の判断である詐欺の事実に何らかの拘束力(争点効)を認めることが考えられる。

ここで、争点効とは、当事者が主要な争点として争い、裁判所が審判を下した争点についてはそれを主要な先決問題とする後訴請求で前訴判断と矛盾する判断を禁止する効力である。

しかし①既判力を主文に限定した前述の趣旨に反する。②要件が不明確で訴訟手続の安定性を害するおそれが、③判決理由中の判断に拘束力を及ぼすことを当事者が望むならば中間確認の訴え(145条1項)により既判力を得ることができる。

したがって、争点効は否定すべきである。

4. 以上から、第2訴訟の理由中の判断に第1訴訟控訴審は拘束されず、Yの主張は認められない。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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