Law Practise 民事訴訟法 基本問題29:証拠保全

1. XのYに対する損害賠償請求訴訟において、Xは証拠保全の申立て(234条)により診療記録の保全をもとめているところ、かかる証拠保全は認められるか。

2. 証拠保全が認められるためには、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」(証拠保全事由)の存在が必要であり(234条)、当事者がこれを疎明しなければならないが(235条、規則153条3項)、どの程度の疎明が必要かが問題となるところ、証拠保全の一般的な証拠開示は現行法の解釈の枠を越え、相手方への不利益への対策が不明確であり、抽象的な保全事由により証拠保全を行うことは当事者の公平を訴訟前に害することになりかねない。

そこで、保全事由の疎明は当該事案に即して具体的に主張され、かつ疎明されることを要すると解するのが相当である(具体的事実必要説)。

3. Yが、自己に不利な記載を含む重要証拠を自ら有する場合に、これを任意にそのまま提出することを欲しないのが通常であるからといった抽象的な改ざんのおそれでは足りず、当該医師に改ざんの前歴があるとか、当該医師が、患者側から診療上の問題点について説明を求められたにもかかわらず相当の理由なくこれを拒絶したとか、或いは前後矛盾ないし虚偽の説明をしたとか、その他ことさらに不誠実又は責任回避的な態度に終始したことなど、具体的な改ざんのおそれを一応推認させるに足る事実を疎明することを要する(広島地決昭61・11・21判時1224-76)。

4. よって、Xが、保全事由として上記のような事情を疎明しない限り、診療記録の保全は認められない。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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