Law Practise 商法 No.28:株主総会決議取消しの訴え

第1.設問(1)

1. 株主総会の招集に際し、取締役は株主に対してその通知を発しなければならないところ(299条1項)、本件総会の招集通知は、C・Dに召集通知発せられなかった。このことが召集手続きの法令違反(831条1項1号)にあたるとして、Xは、Yに対し、株主総会決議取消しの訴えを提起する。

2. これに対し、Yは、Xには招集通知が発せられており、Xに原告適格はないとの反論をすることが考えられる。

 招集手続の瑕疵を理由とする決議取消しの訴えは、その瑕疵のために公正な決議の成立が妨げられたかもしれないという意味での抗議を認めるものであり、決議の公正について利害関係を有する株主であれば、取消しの訴え提起を認めてよい。

したがって、瑕疵が他の株主にのみ存する場合でも、株主には原告適格が認められ、決議取消しの訴えを提起することができる(最判昭42・9・28民集21-7-1970)。

3. そして、召集通知漏れは、召集手続きの法令違反(831条1項1号)に当たると解されるところ、裁量棄却(831条2項)の有無が問題となる。

  ここで、裁量棄却が認められるためには、①招集の手続・決議の方法が法令・定款に違反のばあいであり、②違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響をことが櫃等となる。

  本件は、決議方法の法令違反であるが(①)、上記法令違反は株主の議決権行使の機会を奪う重大な違反であるばかりか、C・Dの持株数は30株に過ぎないが、C・Dが出席し、その意見を発言することで議決に影響を及ぼしうることも想定しうる(②)。

  したがって、裁量棄却は認められない。

4. よって、Xの請求は認められる。

第2.設問(2)

1. Xは、上記訴え提起後の平成24年7月31日に新たな取消事由として、招集期間(299条1項参照)不足を主張することは認められるか。

2. Yの反論としては、「株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる」(831条1項前段)としていることの均衡上、出訴期間経過後の追加主張は許されないとの反論が考えられる。

(1) 確かに、同項は「訴えをもって当該決議の取消しを請求」としているおり、訴えが提起済みであれば、追加主張も許されるとも考えられる。

(2) しかし、831条は、株主総会決議の早期確定による法的安定性の確保をその趣旨としており、株主総会決議取消しの訴えにおいて、831条1項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは、許されないと解すべきである(最判昭51・12・24民集30-11-1076)。

3. よって、Xの追加主張は許されない。

第3.設問(3)

1.設問前段

(1) 株主総会取消しの訴えは、「株主総会等の決議の日から三箇月以内」に提起しなければならないところ(831条1項前段)、本件総会決議は平成24年3月15日になされており、同年8月は既に前記提訴期間を経過しており、期間経過後の訴え提起は訴訟要件欠くことになる。 

2.設問後段

(1) 831条1項前段の出訴期間経過後において、Xは、出訴期間の制限のない株主総会決議不存在確認の訴え(830条1項)を提起することが考えられる。

(2) ここで、「決議が存在しない」とは、決議が外形的に存在しない場合(事実上の不存在)のみならず、法律的に株主総会の決議として評価されるものが存在しない場合(法律上の不存在)も決議不存在とされる。

本件招集通知漏れが法律上の不存在といえるか。取消事由と不存在事由の区別は、相対的であり、個別具体的に判断すべきところ、本件招集通知漏れは、株主7人のうち2人、100株中30株について生じており、本件招集通知漏れの瑕疵が小さいとはいえない。

(3) よって、不存在事由が認められ、上記訴えを提起しうる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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