Law Practise 民事訴訟法 基本問題14:訴え取下げの合意

第1.設問前段

1. XY間の和解契約により、訴え取り下げの合意がなされている。このような訴え取下げの合意は、管轄の合意(11条)と異なり、明文の規定を欠くことから、その適法性が問題となる。

(1) 民事訴訟は、多数の事件を円滑・迅速に処理するため訴訟の方式や手続きについて画一的に定める必要があり、当事者が自由な手続きを設定することは許されないのが原則である(任意訴訟禁止の原則)。

(2) しかし、当事者は一定の範囲内においては特定の訴訟行為をするかしないかの自由が与えられている(処分権主義・弁論主義)。

ただ合意の内容によっては敗訴と同様あるいは敗訴に直結する不利益を被る場合があり、当事者に思わぬ損害が生じることがある。

そこで、明文の規定のない訴訟上の合意も、①処分権主義・弁論主義の妥当する範囲内で、②合意の効果として訴訟上いかなる不利益を受けるのかが明確に予測できる場合であれば許容される。

(3) 訴え取り下げるか否かは処分権主義の妥当する範囲の問題(261条参照)である。 また、その効果も訴訟係属の遡及的消滅であり(262条1項参照)、明確に予測できる。

(4) よって、訴え取下げの合意は、適法である。

2. XY間の訴え取下げの合意により、いかなる効力が生じるか。

(1) まず、訴訟上の合意により、直接訴訟法上の効果が生じるとする見解がある(訴訟契約説)。

この見解によると、取下げの合意により訴訟自体は終了し、裁判所は訴訟終了宣言をすることになる。

しかし、なぜ訴訟外の当事者の契約が直接訴訟上で効果を生じることになるのか不明であり、この見解を採用することはできない。

(2) そもそも訴訟上の合意は、訴訟外でなされるものであり、本来私法の規律を受けるべきものである。

そこで、訴訟上の合意により、実体法上の作為・不作為義務が発生すると解するのが妥当である(私法契約説)。

訴訟上の合意により、当事者は訴えを取下げる実体法上の作為義務を負い、かかる合意の存在が証明された場合、訴えは訴えの利益を欠き、却下判決がなされることになる。

3. 本件で、裁判所は、和解契約の存在およびその条件である示談金の支払いがなされていると判断しており、却下判決がなされることになる。

第2.設問後段

1. 本件において、Xとしては、訴え取下げの合意は脅迫に基づくものであり、無効であるとの主張をすることが考えられる。

2. では、かかる主張は認められるか。訴訟上の行為に私法規定を(類推)適用することの可否が問題となる。

この点、訴訟上の行為に私法規定を適用すると、当該行為を前提になされた訴訟行為が連鎖的に効力を失うことになり、訴訟関係が不安定化することから、私法規定の適用は否定される。

もっとも、再審事由(338条1項各号)に該当する事情がある場合には、同各号の類推適用により当該訴訟行為を無効とすることで表意者の救済を図るべきである(再審事由の訴訟内顧慮)。

3. 本件取下げ合意は、Yの脅迫によりなされており、「刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと」(338条1項5号)に該当する。

4. よって、同号を類推適用し、本件訴え取下げの合意は無効となる。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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