Law Practise 商法 No.49:株式買取請求にかかる公正な価格

1. YのXに対する株式買取請求(785条1項)による協議不調の結果、Xは裁判所に対し価格決定の申立て(786条2項)を行っている。

  本問においては、裁判所はどのような額を買取価格として定めるかが問題となる。

2. 株式買取請求権の趣旨は、吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為に反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主に吸収合併等がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保し、吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生ずる場合にはこれを適切に分配し得るものとすることにより、株主に一定の利益を保証することにあることから、裁判所による買取価格の決定は、「公正な価格」(785条1項)を形成するものであり、法が価格決定の基準について格別の規定を置いていないことから、その決定は裁判所の合理的な裁量に委ねられているものと解される。

上記買取請求権の趣旨から、「公正な価格」とは、吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合には、原則として、当該株式買取請求がされた日における「ナカリセバ価格」(組織再編行為がなかったならば有すべきであった公正な価格)をいう(最決平23・4・19民集65-3-1311)。

しかし、本問のような株式交換の前提として公開買付けが行われた二段階買取りの場合においては公開買付けに応じないと株式交換の際に公開買付けよりも低い価格で締め出される可能性があると同時にその不利益を嫌って公開買付に応じざるを得ないという不当な事態を招くおそれがあることから(強圧的買収の抑制)、株式買取価格決定の際の「公正な価格」は、原則として、当該公開買付価格および当該基準価格を下回ることはないと解するのが相当である(東京地決平21・3・31判タ1296-118)。

3. したがって、本問においては、裁判所は、公開買付時の価格(1700)を最低価格として、買取価格決定すべきである。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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