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Law Practise 商法 No.35:取締役の報酬規制

第1.設問(1)

1. Yは、Xに対して報酬支払請求をしているところ、かかる請求は認められるか。

2. Xとしては、361条で取締役の報酬等は株主総会の決議で定めるとされ、Yについて無報酬としたのは臨時株主総会で決定された事項であるとの反論をすることになる。

3. そこで、いったん決定された取締役の報酬等を事後的に変更することの可否が問題となる。

(1) そもそも、会社・取締役間の関係は委任契約(330条、民法644条)に基づくものであり、報酬等が具体的に決定されると、委任契約の内容となり、契約当事者を拘束する。

(2) したがって、①当該取締役の明示の同意がある場合や②任期中に役職の変更を生じたとき、その変更後の役職に応じた報酬が支払われる慣習や規則が存在し、これを知りながら取締役に就任したという事情があり、黙示の同意があるといえる場合といった事情がない限り、原則として、報酬等を事後的に変更することはできない。

(3) 本件においては、上記①②の事情が認められず、変更はできない。

3. よって、Yの請求は認められる。

第2.設問(2)

1. Yは、Xに対し、既に支払った退職慰労金について不当利得返還請求(民法703条)をしているところ、かかる請求は認められるか。

2. そこで、Xは、退職慰労金は「報酬等」に含まれず株主総会決議は不要であり、「法律上の原因なくして」(民法703条)の要件を充足しないとの反論が想定される。

(1) そこで、退職慰労金が「報酬等」に含まれ、361条が適用されるかが問題となるところ、退職慰労金は、その在職中における職務執行の対価として支給されるものであり、報酬の後払いの性質を有するものであるから、361にいう報酬に含まれると解すべきである(最判昭39・12・11民集18-10-2143)。

(2) そして、定款または株主総会の決議によって取締役の報酬等の金額が定められなければ、その額が社会通念上相当な額であるか否かにかかわらず、具体的な報酬等の請求権は発生しない最判平15・2・21金融商事1180-29)。

(3) 本件において、Xにおいては退職慰労金の算定に関する内規が定められているが、定款や株主総会決議があったわけではなく、Yに退職慰労金請求権は生じていない。

(4) したがって、Yは、「法律上の原因なくして」退職慰労金の支給を受けたといえる。

3. もっとも、株主総会決議等が存在しないにもかかわらず退任取締役が退職慰労金の支給を受けたことは不当利得となるが、発行済株式総数の99%以上を保有する代表取締役Aが事実上当該支給を黙認していると評価でき、また当該支給を受けた退任取締役が従前退職慰労金を支給された取締役と同等以上の業績を上げてきたこと等の事実を前提とすれば、退職慰労金を不支給とすべき合理的な理由があるなどの特段の事情がない限り、会社が退職慰労金相当額の返還を請求することは、信義則に反し、権利の濫用として許されない(最判平21・12・18判時2068-151)。

4. よって、Yは、Xの不当利得返還請求を拒みうる。

第3.設問(3)

1. Xは、これまで内規に従い退職慰労金を支給してきたにもかかわらず、Yに対し不支給を決定することはYの期待権ないし信頼利益(「権利又は法律上保護される利益」)を侵害するものであるとして、Yに対し不法行為にに基づく損害賠償請求をすることになる(民法709条)。

2. 確かに、Xは退職慰労金の支給を実質的に決定できる立場にあるといえる。しかし、Xの支給はこれまでの慣行に従ったにすぎず、Xが民事再生法の適用を受け、支給が困難な状況にあることは、Yも取締役として当然承知しているとみるべきであり、さらにAがXにこれまでどおりの支給を行う旨の説明をしたとの事情もない。

   したがって、Yの期待権は「権利又は法律上保護される利益」に値するとはいえない。

3. よって、損害賠償請求は認められない。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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