Law Practise 商法 No.21:新株発行の無効事由

1. Xは、Yに対し、新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起することが考えられるところ、同号は無効事由を明記していないことから、その判断基準が問題となる。

株式発行に暇疵がある場合、原則として誰でもいつでも無効主張できるはずである。しかし、設立後の株式発行は利害関係人が多数生じる会社の資金調達の一手段であり、取引の安全の要請が強い。

したがって、無効原因は,重大な法令・定款違反の場合に限定すべきである。

以下、Xが主張する各無効事由について検討する。

2.①の無効原因(通知・公告欠いている点)

(1) 公開会社における募集事項の通知・公告は、株主に発行等差止請求(210条)をする機会を与え、それによって株主の利益の保護を図ることを目的とする。

(2) したがって、①通知・公告を欠いた場合、株主が募集株式の発行等差止請求権を行使する機会を奪われるから、原則として無効原因となる。もっとも、②差止の事由がないため差止請求の訴えを提起したとしても許容されないと認められる場合には、株主の利益が奪われたとはいえないから、無効原因にあたらない

3.②の無効原因(取締役への通知を欠いている点)

(1) 取締役会の開催にあたっては、全取締役に出席の機会を与えるため招集通知を発することが必要であり(368条1項)、一部に通知の欠缺がある場合には、取締役会でなされた決議は成立過程に重大な瑕疵があるものとして無効となる

(2) では、有効な取締役会決議を欠いた新株発行の効力はどうか。

会社法は、会社の資金調達の使宜のため授権資本制を採用し、公開会社においては募集株式の発行を取締役会の決議事項としており、募集株式の発行をいわば業務執行行為に準じるものとして扱っており、会社資金調達の一方法であるという側面を重視すべきである

したがって、対外的に会社を代表する権限を有する代表取締役により発行された以上、取引安全の見地から、募集株式の発行は有効とすべきである

(3) よって、無効原因とならない。

4.③の無効原因(著しく不公正な新株発行)

(1) 201条の趣旨は、会社の資金調達の必要性に迅速に対応することにある。そのため、特定株主の持株比率を低下させる目的が、資金調達等の他の目的に優越し、それが主要目的といえる場合には、不公正発行等にあたると解すべきである。

(2) 会社法は、会社の資金調達の便宜のため授権資本制を採用し、公開会社においては募集株式の発行等を取締役会の決議事項としており、募集株式の発行等はいわば業務執行行為に準じるものとしており、募集株式の発行等が著しく不公正な方法によることは、会社の内部事情にすぎない。

したがって、株式の取得者や会社債権者等の取引安全に重点を置くべきである。

(3) よって、著しく不公正な方法による募集株式の発行自体は有効である。

5.④の無効原因(払込みを欠く新株発行)

(1) 真実の払込みを欠く場合、取締役の引受担保責任が存在していた旧法下での判例は取締役が共同して引き受けたものとみなされる以上、新株発行を無効としないものとしていた、

(2) しかし、取締役の引受け担保責任が廃止された現行法においては、有効な払込がないと引受人はする失権することから(208条5項)、払込みを欠く新株発行は無効となる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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