Law Practise 民事訴訟法 基本問題39:訴えの変更

1. Xは、甲家屋の引渡しおよび所有権移転登記請求(旧請求)を履行不能による損害賠償請求(新請求)に変更することを申し立てている。このような訴えの交換的変更は認められるか。

(1) 訴えの交換的変更の要件についてはその法的性格と関連して問題となる。

(2) これについて判例は、訴えの追加的変更および訴えの取下げを組み合わせたものとし(複合行為説・最判昭32・2・28民集11-2-374)、訴えの変更の要件(143条1項)のほか、「相手方の同意」(261条2項)が必要となる(もっとも、変更の原因を相手方が作った場合、信義則上(2条)同意は不要と解すべきである)。

しかし、この見解では新請求の審判のために旧請求の訴訟資料を用いることができることを説明できず、妥当でない。

そこで、訴えの交換的変更は、訴えの変更の独自の一類型であると考えるべきであり(独自類型説)、①請求の基礎に変更がないこと、②口頭弁論終結前であること、③著しく訴訟手続を遅滞させないことという143条1項所定の要件を充足すれば足りる(もっとも、相手方の利益を考慮して相手方の同意を要するとする見解も有力である)。

(3) 以下、上記各要件の充足性について検討する。

   まず、①「請求の基礎に変更がない」(請求の基礎の同一性)とは、請求が予想外のものに変更されて被告の防御を困難にすることを防止し、従前の裁判資料を継続利用できるようにすることをその趣旨とするから、新請求の利害関係が社会生活上共通であり、旧請求をめぐる裁判資料の継続利用が可能であることをいうと解する。

   旧請求の請求原因はXYの売買契約締結であり、その有効性が争点となっているところ、新請求である損害賠償請求においてもXY間の売買契約締結が有効に成立していることが前提となることから、旧請求と新請求は利害関係が社会生活上共通している。また、両請求とも争点は売買契約の有効性であり、両請求の裁判資料は継続利用が可能であり、「請求の基礎に変更がない」といえる。

   また、本件は、②口頭弁論終結前であり、③旧請求について審理が熟しつつあり、新請求の審理のために新たな裁判資料が必要となるといった事情により著しく訴訟手続を遅滞させる場合であない限り、訴えの変更の要件を充足する。

(4) よって、上記③の事情がない限り、本件において訴えの変更は許される。

2. では、裁判所は旧請求についていかに扱うべきか。

(1) 上述の複合行為説による場合、交換的変更を訴えの変更の態様として認めないことから、追加的変更として扱い、旧請求について相手方の同意が得られない場合、旧請求について原告敗訴の本案判決をすることになる。

(2) これに対し、独自類型説によるならば、相手方の同意がなくても、旧訴が新訴に有効に変更されたものとして、審理を継続することが可能となる(もっとも、相手方の利益を考慮して相手方の同意を要するとする見解による場合、追加的変更として扱い、旧請求について相手方の同意が得られない場合、旧請求について原告敗訴の本案判決をすることになる)。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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