Law Practise 商法 No.43:登記簿上の取締役の第三者に対する責任

第1.Y1に対する請求

1. Xは、Y1に対し429条1項に基づく損害賠償請求を提起しているところ、かかる訴えは認められるか。

429条1項の責任が認められるためには、①役員等が②その職務を行うについて悪意又は重大な過失③第三者に損害発生④②③間の因果関係が存することが必要である。

2. まず、①の要件について、検討する。

Y1は、Bから頼まれて、Aの取締役になった旨の議事録が作成され、Aの取締役である旨の登記がなされているにすぎず、選任決議を経ていないことから、「役員等」(423条1項参照)に当たるかが問題となるところ、取締役でないのに取締役として就任の登記をされた者が故意または過失により右登記につき承諾を与えていたときは、同人は、908条の類推適用により、自己が取締役でないことをもって善意の第三者に対抗することができない(最判昭47・6・15民集26-5-984)ものと解すべきである。

  したがって、①の要件を充足する。

3. 次に、②の要件について、悪意・重過失の対象が429条の責任の性格との関連で問題となる。429条は株式会社が経済社会において重要な地位を占めており、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存することを考慮した特則であり、取締役の任務懈怠により第三者が損害を受けた場合に第三者の保護を厚くするために法定された責任であると解され(最大判昭44・11・26民集23-11-2150)、このことから、悪意・重過失は任務懈怠(善管注意義務違反・忠実義務違反)についてあれば足りる(法定責任説)。

本件において、取締役は取締役会の構成員として取締役の監視義務を負うところ(362条2項2号)、Y1のように名目的に取締役に就任したものであっても、同会社の代表取締役の業務執行を全く監視せず、取締役会の招集を求めたりすることもなく、同人の独断専行に任せている間に、同人が代金支払いの見込みもないのに商品を買い入れて売主に対し代金相当額の損害を与えた場合には、損害賠償責任がある(最判昭55・3・18判時971-101)ものと解すべきである。

  したがって、②の要件を充足する。

4. そして、③の要件について、「損害」の意義について、上記法定責任説から直接損害のみならず、間接損害も包含しうると解されるところ、Y1の任務懈怠の結果、Bの乱脈経営を許すことになり、A倒産という結果が生じ、Xに売掛金の弁済を受けられないという損害を生じさせている。

  したがって、③および④の要件も充足する。

5. よって、Xの請求は認容される。

第2.Y2に対する請求

1. Xは、Y2に対する429条1項に基づく損害賠償請求は認められるか。

2. まず、①の要件について、Y2は、Aの取締役である旨の登記がなされているが、Y2は取締役を既に辞任しており、登記が残存しているにすぎないことから、「役員等」(423条1項参照)に当たるかが問題となるところ、株式会社の取締役を辞任した者が、当該会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合には、908条の類推適用により、右辞任者は、善意の第三者に対して取締役でないことを対抗できず、429条にいう取締役としての責任を免れない(最判昭62・4・16判時1248-127)と解すべきである。

  Y2には、登記を残存させることを了承していたという事情はないことから、908条の類推はなされない。

3. したがって、①の要件を充足せず、Xの請求は認容されない。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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