Law Practise 発展問題14:残部請求と信義則違反
1. Xが3000万円の損害賠償請求権の一部である500万円について請求することは、訴訟物の特定について当事者が自由に決定できるとする処分権主義(246条)から、当然に認められる。
2. では、Xは、上記一部請求の棄却判決確定後、Yに対して、残部2500万円の請求の訴えを提起しうるか。
前述の処分権主義、および、訴訟費用に乏しい原告に試験訴訟を認める必要性から、訴訟物を-部と解し、残部請求を認めるべきとも思える。しかし、これを常に認めると、被告の応訴の負担や審理の重複・訴訟経済の点で妥当でない。
そこで、両者の調和の観点から、一個の債権の数量的な一部である旨明示されている場合には、訴訟物は明示された一部に限定され、当該一部請求についての確定判決の既判力は残部の請求に及ばないと解するべきである(最判昭37・8・10民集16-8-1720)。
3. しかし、一部認容判決と異なり、一部請求を全部または一部棄却する旨の判決は、債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権が全く現存しないかまたは一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものである。
4. したがって、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情のない限り、信義則に反して許されない(最判平10・6・12民集52-4-1147)。