Law Practise 民事訴訟法 発展問題13:既判力の客観的範囲

1. X1は、前訴(甲土地の所有権確認および所有権移転登記請求)の敗訴判決確定後に遺産確認請求および共有持分に基づく所有権一部移転請求の訴え(以下、後訴)を提起している。この後訴請求は、既判力(114条1項)に抵触しないか。後訴の訴訟物が前訴訴訟物の一部であることから、問題となる。

2. ここで、既判力とは、確定判決の判断内容の後訴に対する拘束力であり、判決主文で示された訴訟物たる権利・法律関係についての判断にのみ生じ、判決理由中の判断には生じないのが原則である(114条1項)、

その趣旨は当事者間の紛争処理としては、訴訟物たる権利・法律関係についての判断に既判力を認めれば足りることに求められ、その効力は訴訟物たる権利・法律関係については当事者から十分な攻撃防御を期待しうるから、手続保障充足による自己責任を問いうることにより正当化される。

しかし、訴訟物であっても、当事者に十分な攻撃防御方法が与えられていない場合には、後訴で攻撃防御方法の機会を与え手続保障を尽くさせるべく、既判力を縮減させる必要がある。また、既判力の根拠からしても、後訴での主張が前訴の判決によって解決されたはずの紛争を蒸し返すものではない場合には、法的安定性を害するともいえないから、既判力を例外的に縮減させても不都合はない。

そこで、既判力の趣旨に照らして、既判力を縮減させるべき場合には、既判力の縮減を例外的に認めるべきである。

3. 本件では、前訴の訴訟物は、甲土地所有権および所有権移転登記請求権であり、後訴の訴訟物は遺産共有持分権および共有持分に基づく移転登記請求であり、前者と後者は全部一部の関係にある。前訴において、X1が甲土地の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じるから、前訴の事実審口頭弁論終結の時点以前に生じた所有権の一部たる共有持分の取得原因事実を後の訴訟において主張することは、右確定判決の既判力に抵触する(最判平9・3・14判時1600-89)のが原則である。

しかし、前訴では、共有持分権に関する主張は両当事者からなされておらず、争点となっていない。また、X1が後訴を提起した経緯をみると、甲土地はAの道産に属するとの前訴の判断結果に従い、後訴で共有持分権の主張をしている。そうだとすると、後訴での共有持分権の主張は、必ずしも前訴の紛争を蒸し返しているとまで はいえない。また、前訴では、裁判所がX1の共有持分権取得に関する心証を得ているにもかかわらず、何らの釈明(149条1項)をしていないところ、これは裁判所の釈明義務違反といえる。なぜなら、この事実は、判決の勝敗転換に関わる事実であり、裁判所は釈明によりXに一部認容判決取得の機会を与えるべきだからである。そうだとすると、前訴においては、共有持分権取得に関する攻撃防御を尽くす機会がX1には十分に与えられておらず、手続保障が尽くされていたとはいえない。

よって、本件事情のもとでは、前訴について生ずる既判力の範囲を縮減し、共有持分権取得については既判力が及ばないものと考える。

4. 以上から、後訴は既判力に抵触せず、請求は認められる。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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