Law Practise 民事訴訟法 基本問題28:文書真正の推定
1. 文書の証拠力は、文書の記載内容が証明に役立つことをいい、形式的証拠力(文書成立の真正)とこれを前提とする実質的証拠力(要証事実の認定に役立つ程度)を裁判官が自由な心証で判断する(自由心証主義・247条)。
文書成立の真正とは、当該文書が挙証者の主張する者の意思に基づいて作成されたことを意味するところ、本件借用書は、処分証書(意思表示がその文書によってされているもの)であり、高い実質的証拠力を有する。そのため、文書成立の真正が証明されれば、これを主要な証拠として主要事実(消費貸借契約の締結)の存在が認められ、この点についての反証の余地はなくなる。
したがって、Yにとって、本件借用書成立の偽造(成立の不真正)を立証することが重要となるが、裁判所が本件借用書の偽造を認定するために、Yは、いかなる事実を立証する必要があるかについて、検討する。
2. 文書成立の真正を証明責任は、Xはが負担するが(228条1項)、その立証は困難であることから、法は推定規定を置いている。
(1) ここで、本件借用書は私文書であり、私文書は「本人又はその代理人の署名又は押印」があるときに、真正に成立したものと推定される(228条4項)。
(2) もっとも、「署名又は押印」は、「本人又はその代理人」の意思に基づくことが必要であり、私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によって顕出された事実が確定された場合には、印章は慎重に扱われるはずという経験則から、当該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定される(最判昭39・5・12民集18-4-597)。
(3) したがって、文書中の印影が「本人又はその代理人」の印章と一致すれば、「本人又はその代理人」の意思による押印であることが推定(1段目の推定)され、さらに、228条4項により「本人又はその代理人」の意思に基づいて作成されたことが推定(2段目の推定)される(いわゆる二段の推定)。
3. では、Yは、上記推定を覆すためには、いかなる事実を証明する必要があるか。
(1) まず、1段目の推定は、印章は慎重に扱われるはずという経験則から生じる事実上の推定であり、印章の預託・共有等による盗用・冒用の可能性を反証することにより、この推定を覆しうる。
(2) また、2段目の推定は、法定証拠法則であり、押印後の改ざんなど文書の作成内容が作成名義人の知らない事項であったことの反証により、この推定を覆しうる。
4. 以上から、Yが上記事項を立証すれば、裁判所が本件借用書の偽造を認定することができる。