読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Law Practise 商法 No.33:取締役の競業避止義務

1. Xは、Yに対し、以下の理由①~③からXの任務懈怠責任(423条1項)に基づく損害賠償請求をすることになる。かかる訴えは認容されるか。

2.理由①について

(1) 理由①は、Yが取締役会の承認なく「株式会社の事業の部類に属する取引」を行った(365条、356条1項1号)という競業避止義務違反を「任務を怠った」の内容とするものであり(423条3項1号、同1項)、Yの得た利益を損害額(423条2項)として請求するものである。

(2) ここで、Yに競業避止義務違反が成立するためには、ⅰ「自己又は第三者のため」、ⅱ「株式会社の事業の部類に属する取引」を行ったことが必要である(356条1項1号)。

ア.ⅰ「自己又は第三者のため」とは、行為の経済上の利益が自己または第三者に帰属することを意味する(実質説)。

確かに、Aの事業は、形式的にはYの妻Zの名義で行われているものの、Aは、Yが一人株主として設立し、主宰していたものであるから、その経済上の利益は、Yに帰属しているといえ、Yが自己のために行ったといえる。

イ.ⅱ「株式会社の事業の部類に属する取引」とは、会社の事業と市場において競合し、会社と取締役との間に利害衝突をきたす可能性のある取引を意味する。

X・Aはそれぞれスナック菓子の製造・販売、米菓の製造・販売を行う会社であり、商品の種類は競合し、製造・販売という形態も共通している。もっとも、Xは関西地方において、Aは東海地方においてそれぞれ事業を展開しており、地理的範囲につき競合がないかにみえる。しかし、Xは東海地方進出に向けて準備しており、Yはそのことを知りつつ、本件土地を購入したものであり、これをXの1部門として建設すべきであったのであるあら、Xが自己の1部門として建設していたのと同視しうる。

したがって、Aの事業はXの「事業の部類に属する取引」といえる。

 ウ.よって、Yに競業避止義務違反が成立する。

(3) また、「損害の額」(423条2項)については、Yの得た利益が損害額として、推定されるところ、Aは赤字であり、Yは利益を得ていないようにみえる。しかし、ZはAより5000万円の報酬を得ており、Zは Yの妻であり、少なくともその一部はYの報酬になるものといえる。

2.理由②について

(1) 理由②は、YがXの従業員をAに引抜いた行為が忠実義務(355条)違反に当たるとすることを内容とするものである。

(2) 取締役は善管注意義務(330条、民法644条)および忠実義務(355条)を負うところ、「任務を怠った」(任務懈怠・423条1項)とはこれらの義務に違反する場合をいう。

   ここで、忠実義務とは「株式会社のため忠実にその職務を行」うことをいい(355条)、人材は重要な資産であって、その取締役が自己の利益のためにその人材についていわゆる引抜き行為をすることは、会社に対する重大な忠実義務違反にあたり(東京高判平1・10・26金融商事835-23)、Yは、Xに対し、損害賠償義務を負う(423条1項)。

(3) そして、引き抜きで生じたXの逸失利益が損害額となる。

3.理由③について

(1) 理由③は、Yが本件土地を購入したことによりXの事業機会をったものであり、Yが取締役会の承認なく「株式会社の事業の部類に属する取引」を行った(365条、356条1項1号)という競業避止義務違反を「任務を怠った」の内容とするものである(423条3項1号、同1項)。

(2) ここで、Yに競業避止義務違反が成立するためには、ⅰ「自己又は第三者のため」、ⅱ「株式会社の事業の部類に属する取引」を行ったことが必要である(356条1項1号)。

ア.ⅰ「自己又は第三者のため」とは、行為の経済上の利益が自己または第三者に帰属することを意味する(実質説)。

確かに、Aの事業は、形式的にはYの妻Zの名義で行われているものの、Aは、Yが一人株主として設立し、主宰していたものであるから、その経済上の利益は、Yに帰属しているといえ、Yが自己のために行ったといえる。

イ.ⅱ「株式会社の事業の部類に属する取引」とは、会社の事業と市場において競合し、会社と取締役との間に利害衝突をきたす可能性のある取引を意味する。

X・Aはそれぞれスナック菓子の製造・販売、米菓の製造・販売を行う会社であり、商品の種類は競合し、製造・販売という形態も共通している。もっとも、Xは関西地方において、Aは東海地方においてそれぞれ事業を展開しており、地理的範囲につき競合がないかにみえる。しかし、Xは東海地方進出に向けて準備しており、Yはそのことを知りつつ、本件土地を購入したものであり、これをXのために利用すべきであったのであるから、Xが東海地方進出のため購入したものと同視しうる。

したがって、本件土地購入はXの「事業の部類に属する取引」といえる。

 ウ.よって、Yに競業避止義務違反が成立する。

(3) また、「損害の額」(423条2項)については、Yの得た利益が損害額として、推定されるところ、Aは赤字であり、Yは利益を得ていないようにみえる。しかし、ZはAより5000万円の報酬を得ており、Zは Yの妻であり、少なくともその一部はYの報酬になるものといえる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

Law Practice 商法〔第2版〕