Law Practise 商法 No.32:代表取締役の代表権

1. Xは、Yに対し、AX間の賃貸借契約及びAX間の賃料債権譲渡契約に基づいて、賃料支払請求をしている。

2. これに対し、Yは、本件債権譲渡は、「重要な財産の処分及び譲受け」(362条4項1号)にあたり、取締役会決議必要であるにもかかわらず、Bが独断で行ったものであり、無効であるとの反論を主張することが考えられる。

(1) ここで、「重要な財産の処分及び譲受け」の意義がもんだいとなるところ、重要な財産の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様および会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解する。(最判平6・1・20民集48-1-1)

AがXに譲渡した賃料債権の名目額は6000万円であり、A社の総資本(12億円)の5%、資本金(3億円)の20%に相当することから、その保有目的等を検討するまでもまく、本件債権譲渡は「重要な財産の処分」にあたる。

(2) では、上記362条4項違反の効果は、どうなるか。

代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な取引行為を右決議を経ないでした場合でも、右取引行為は、内部的意思決定を欠くにとどまるから、原則として有効である。しかし、相手方において右決議を経ていないことを知りまたは知りうるときでない限り、有効である民法93類推適用説最判昭40・9・22民集19-6-1656)

したがって、Xに上記の事情が存すれば、本件債権譲渡は有効である。

(4) もっとも、同項が重要な業務執行についての決定を取締役会の決議事項と定めたのは、代表取締役への権限の集中を抑制し、取締役相互の協議による結論に沿った業務の執行を確保することによって会社の利益を保護しようとする趣旨であるから、会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、取締役会の決議を経ていないことを理由とする同取引の無効は、原則として会社のみが主張することができ、会社以外の者は、当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、これを主張することはできない最判平21・4・17民集63-4-535)。

(5) 以上から、Yは、無効主張権者に当たらず、上記の主張はなしえない。

3. また、Yは、Bの行為はAの内規違反であり、本件債権譲渡の無効であるとの反論が考えられる。

(1) 代表取締役は、会社の代表権を有し(349条1項)、その権限は、原則として不可制限的で「業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限」(349条4項)に及ぶ。

しかし、「権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」(同5項)とされるところ、「善意」とは、代表行為時に相手方が制限自体について知らなかったことをいい、代表権の不可制限性および制限が不公示であることから、無過失については不要とされる。

本件において、Xは、本件内規については善意であれば、本件債権譲渡は有効となる。

(2) もっとも、349条5項も362条4項と同様、会社の利益を保護しようとする趣旨であるから、会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、取締役会の決議を経ていないことを理由とする同取引の無効は、原則として会社のみが主張することができ、会社以外の者は、当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、これを主張することはできないものと解する。

(3) よって、Yは、本件債権譲渡の無効を主張することはできない。

4. 以上から、Yの一連の反論は根拠を欠き、Xの請求は認められる

 

Law Practice 商法〔第2版〕

Law Practice 商法〔第2版〕