Law Practise 民事訴訟法 発展問題10:証明妨害

1. X(契約者)のY(保険会社)に対する保険金支払請求において、事故前の保険料支払の有無 が争点となっているところ、領収書に支払日の記載がないことが証明妨害法理により、Yの抗弁を排斥しえないか。

2. まず、本件は証明妨害法理について認められた明文上の個別的規定(208条、224条等)には反しない。

そこで、証明妨害法理を一般化することの可否が問題となるところ、社会生活上、利害関係が複雑化・深刻化するにつれ、訴訟上の当事者の利害対立も激しくなり、証明責任を負わない者が故意または重大な過失により立証責任者の証明を妨害する事態が生じうるから、現行法の証明妨害法理を一般化し、証明責任を負わない当事者が故意または重過失により証明責任を負う当事者の立証を失敗させ、または困難にすることを証明妨害として一定の効果(制裁)を認めるべきである。

3. 証明妨害の効果(制裁)については、要証事実について証明責任が妨害者に転換されるとする見解(証明責任転換説、東京地判平2・7・24判時1364-57)もあるが、そもそも訴訟進行中の証明責任の転換は疑問であり、証明妨害を惹起した当事者の責任の程度を制裁に反映させることができない点に問題がある。

そこで、裁判所の自由裁量を認めるほうが柔軟性に富むことから、2241項を類推して、妨害の態様、有責の程度を考慮して、自由裁量により相手方の主張を真実と認めるかどうかを決すべきである(証拠評価説、東京高判平3・1・30判時1381-49)。

4. 本件において、Yが故意・重過失によりXの立証を失敗させたといえるかが問題となるところ、Yは保険会社であり、領収書に日付を記載することは日常的な業務であり、これが保険契約者の受給資格に影響を与える以上、十分な配慮を要すべき事柄であるのは当然であり、Yに重過失があったものと認められる。

  そして、本件において領収書の日付は、Xの受給資格を証明する重要な証拠であり、これを不注意で証明困難にしたYの有責性は大きいといえる。

5. よって、裁判所はその裁量により、Yの抗弁を排斥し、Xの主張を真実と認めうる。

 

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Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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