Law Practise 商法 No.27:委任状勧誘

1. Xは、Yに対し、以下の理由に基づき本件決議の議取消しの訴え(831条1項)を提起する。

(1) 議決権の代理行使の勧誘は、代理権の授与に関し参考となるべき事項として内閣府令で定めるものを記載した書類を交付しなければならないところ(金商法施行令(以下、施行令)36条の2第1項、委任状府令(以下、府令)1条1項・2条1項)、Yは、これを交付しなかったばかりか、賛否欄も府令が定める様式に従っていなかった(施行令36条5項、府令43条)。

したがって、これらの委任状勧誘の不備は金商法194条に違反する。

(2) 議決権の代理行使は、法310条、金商法194条、金商法施行令36条の2で許容されており、委任状は「議決権を行使することができる株主の議決権」(309条1項)に含まれるところ、Yは、本件会社提案についてこれに算入しなかったのであり、この点について、309条1項違反がある。

(3) これらの違法は、決議方法の法令違反(831条1項1号)にあたる。

2. 委任状勧誘の不備について

(1) Yは、参考書類の不交付:委任状勧誘の方式は株主総会決議の前段階であって、株主決議の方法ではないとの反論が考えられる。

しかし、第三者による勧誘はともかく、会社による勧誘の場合には株主総会決議に向けた手続きというべきであり、株主決議の方法の法令違反にあたる。

(2) また、賛否欄が府令に依拠していなかった点について、賛否欄に不備があったとしても、株主の意思表示が不能であるとは必ずしもいえないとの反論が考えられる。

   しかし、賛否欄の不備は、府令43条に形式的には違反しており、実質論は裁量棄却の有無で判断すべきであるから、法令違反を認めるべきである。

3.X社勧誘の委任状を議権権に算入しなかった点

(1) これについてのY社の反論としては、Xの委任状に会社提案について賛否欄の記載なく、違法であることとの主張が考えられる。

(2) しかし、①本件株主提案に賛成する議決権行使の代理権を授与した株主にとっては、原告が本件会社提案に反対の議決権の代理行使をすることは代理権授与の趣旨に沿ったものであり、②株主が株主提案に賛成するとともに会社提案に反対することを内容とする議決権代理行使の勧誘をする場合に、常に会社提案についても賛否を記載する欄を設けた委任状の用紙を作成しなければならないとすると、株主は株主総会招集通知の受領後に,会社提案について賛否を記載する欄を設けた委任状及び会社提案についての参考書類の作成,株主に対する送付等を行った上で、2週間から上記の作業期間を控除した残りの期間に議決権代理行使の勧誘を行わなければならず、会社と比較して著しく不利な地位に置かれることとなる。

このことから、株主が自らの提案に賛成するとともに会社提案に反対することを内容とする議決権代理行使の勧誘をするためには常に会社提案についても賛否を記載する欄を設けた委任状を作成しなければならないと解することは株主に対する議決権代理行使の勧誘について会社と株主の公平を著しく害する結果となるといわざるを得ず(東京地判平19・12・6判タ1258-69)、X社勧誘の委任状を出席決議権数に算入しなければならなかった。

(3) したがって、議決権の不算入は、309条1項に反し、決議方法の法令違反にあたる。

4. 上記のように本件決議には決議方法の法令違反が存するところ、裁量棄却(831条2項)の有無が認められるか。

ここで、裁量棄却が認められるためには、①招集の手続・決議の方法が法令・定款に違反のばあいであり、②違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響をことが必要となる。

  本件は、決議方法の法令違反であるが(①)、上記法令違反は株主の議決権行使の機会を奪う重大な違反であるばかりか、この違反の有無は十分に議決に影響を及ぼしうるものである(②)。

  したがって、裁量棄却は認められない。

5. 以上から、Xの請求は認められる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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