Law Practise 商法 No.26:株主提案権

第1.本件取締役会提出議案可決を争う場合

1. 株主には、議題提案権(303条)、議案提案権(304条)および議案通知請求権(305条)が認められているところ、Xが行った本件定款変更提案をYは303条・305条に従い、本件総会の議題とし、議案の要領を招集通知に記載すべきところ、これを行わなかった(提案議題の不当拒絶)。このことから、本件取締役会提出議案の可決決議(以下、本件決議①)には招集の手続の法令違反の瑕疵があることを理由に、Xは、Yに対し株主総会決議取消しの訴え(831条1項1号)を提起することになる。

2. これに対し、Yは、本件定款変更提案は本件取締役会提出議案とは関係がなく、本件決議①にまで取消しの効力が及ばないとの反論が考えられる。

(1) ここで、「決議」83111)とは株主総会において形成力を生ずる事項を内容とする議案が所定の手続を踏んで可決された場合における当該決議をいい可決された上記議案とは別に、株主が同法303条所定の要件を備えて一定の事項を株主総会の目的とすることを請求したが株主総会において取り上げられなかったものがあっても、そのことは、原則として当該決議の取消しの事由には当たらない。

しかし、例外的に、①当該事項が株主総会の目的である事項と密接な関連性があり、株主総会の目的である事項に関し可決された議案を審議する上で株主が請求した事項についても株主総会において検討、考慮することが必要、かつ、有益であったと認められるときであって、②上記の関連性のある事項を株主総会の目的として取り上げると現経営陣に不都合なため、会社が現経営陣に都合のよいように議事を進行させることを企図して当該事項を株主総会において取り上げなかったときに当たるなど、特段の事情が存在する場合に限り、同法831条1項1号に掲げる場合に該当すると解するのが相当である。(東京高判平23・9・27)

(2) 本件株主総会は、Y役員の選任を目的とし、本件定款変更提案と密接な関係を有するとはいえない。また、Yが本件定款変更提案を取り上げなかったのは、これが業務執行に係る事項を株主総会に留保するものであることから、株主総会に上程しなかったのであり、自分たちの都合のいいように総会の議事を進行することを企図したものでもない。

(3) したがって、本件定款変更提案を上程しなかったことは、831条1項1号に該当せず、取消事由は存しない。

3. 以上から、Xの請求は認められない。

第2.本件役員選任提案の否決を争う場合

1. Xは、Yに対し上記と同様の理由により、本件役員選任提案否決決議の議取消し訴訟(831条1項1号)を提起することにする。

2. これに対し、Yは、「決議」(831条1項1号)とは、可決の場合を指し、否決はこれに該当しないから、その取消しはありえないとの反論が考えられる。

前述のとおり、「決議」とは株主総会において形成力を生ずる事項を内容とする議案が所定の手続をんで可決された場合における当該決議を指すことから、否決決議はこれに当たらない。なぜなら、「決議」(309条各項)は否決の決議を前提としていないからである。また、否決の決議により新たな法律関係が展開されるわけではない。

3 したがって、Xの訴えには訴えの利益が認められず、訴えは却下される。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

Law Practice 商法〔第2版〕