Law Practise 民事訴訟法 基本問題20:権利自白

1. Yは、包括的一般的過失の存在を認める陳述(以下、本件陳述)をしているところ、これが裁判上の自白(179条)に該当すれば、裁判所は自白をそのまま判決の基礎としなければならず(弁論主義の第2テーゼ・裁判所拘束力)、裁判所は証拠調べをすることなく、Yの過失認定することができる。

2. そこで、Xの自白が裁判上の自白(179条)にあたるかが問題となる。

(1) 自白とは相手方の主張する自己に不利益な事実を認める陳述であり、これが口頭弁論や弁論準備手続でなされる場合が裁判上の自白である。

ここで、「事実」の内容が問題となるところ、当事者の意思の尊重および不意打ち防止の見地から訴訟の勝敗に直結する事実たる主要事実を弁論主義の対象とすれば十分である 。

したがって、原則として、主要事実のみが裁判上の自白の対象となる「事実」にあたると解する。

もっとも、過失のような不特定概念の場合、その内容をなす具体的事実が審理の中心であり、不意打ち防止の観点からも、過失の内容をなす具体的事実が「事実」にあたると解する。

本件陳述のように過失のような不特定概念を認める旨の陳述は、裁判上の自白にいう「事実」を認める旨の陳述にあたらない。

(2) もっとも、本件陳述が請求の当否の判断の前提をなす先決的な権利・法律関係についての自白と同視しうるならば、いわゆる権利自白となる余地もある。そこで、本件陳述に権利自白として、自白の拘束力が生じるかについて検討する。

法律関係の判断は裁判所の専権であり、原則として権利自白には裁判上の自白の拘束力を認めるべきではない。もっとも、日常的な法律概念を用いている場合には事実上の陳述と評価して、裁判上の自白の拘束力を認めるべきである。

過失は、売買や賃貸借等のような日常的な法律概念とまではいえず、Yの陳述は権利自白にあたらない。

(3) したがって、Xの陳述は、裁判上の自白に当たらず、自白の拘束力は生じない。

3. よって、裁判所は証拠調べをすることなく、Yの過失認定することはできない。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕