Law Practise 商法 No.25:取締役の説明義務

1. Xは、Yに対し代表取締役Dの説明義務(314条本文)違反が決議方法の法令違反であることを理由に株主総会決議取消しの訴え(831条)を提起する。かかる訴えは認められるか。

2. これに対し、Yは、Xの質問事項がABCのプライバシー侵害になり、「株式会社その他の者…の権利を侵害することとなる場合」(会社法施行規則71条2項)に該当することから、「正当な理由」(314条ただし書)になることを理由に説明義務の不存在を反論として主張することが考えられる。

退職慰労金決議については、株主の質問に対して、会社に現実に一定の確定された基準が存在すること、それが株主に公開され周知のものであるか、株主が容易に知りうること、その内容が支給額を一意的に算出しうるものであること、を説明しなければならず(東京地判昭63・1・28判時1263-3)、これを説明したからといって、ABCのプライバシーを侵害するとはいえない。

したがって、説明を拒否する「正当な理由」はなく、Yに説明義務の存在が認められる。

3. また、Yとしては、退職慰労金に関する事項はすでに株主総会の一任を得ており、説明義務違反は存在しないとの反論が考えられる。

そこで、説明義務の程度が問題となるところ、取締役等の説明義務は、合理的な平均的株主が、総会の目的事項を理解し、議決権行使にあたり合理的判断をするのに客観的に必要な範囲において認められるものと解される(福岡地判平3・5・14判時1392-126)。

本件では、退職慰労金議案が問題となっており、会社から取締役に支払われる退職慰労金を含む「報酬等」をコントロールすべく、株主総会の決定に係らしめた会社法361条1項の趣旨、取締役の報酬等に関する議案について、算定の基準、退職する各取締役の略歴についての記載を要するとした会社法施行規則82条1項・2項から、少なくとも算定基準及び当該取締役の略歴についての記載・説明は必要といえる。

しかしながら、Yは、招集通知に「取締役の協議に一任願いたい」と記載するのみで、算定基準すら明記せず、Xの質問にも答えなかていない。

したがって、Yには、説明義務違反が存するものと解すべきである。

3. さらに、Yは、裁量棄却(831条2項)を主張することが考えられる。

ここで、裁量棄却が認められるためには、①招集の手続・決議の方法が法令・定款に違反のばあいであり、②違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響をことが必要となる。

  本件は、決議方法の法令違反であるが(①)、退職慰労金議案に関する手続違背は明確な法令違反であり重大な違反であるばかりか、説明がなされていれば議決に影響を及ぼしえたことも想定されうる(②)。

  したがって、裁量棄却は認められない。

4. 以上から、Xの請求は認められる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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