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Law Practise 商法 No.20:有利発行・不公正発行と取締役の責任

第1.設問(1)

1. Xは、Yに対し株主代表訴訟(847条1項)により任務懈怠責任(423)に基づく損害賠償請求は 認められるか。

2. そこで、Yが「任務を怠った」といえるかが問題となる。

(1) 取締役は、善管注意義務(330条、民法660条)および忠実義務(355条)を負い、「任務を怠った」(任務懈怠・423条1項)とはこれらの義務に違反することをいう。

そして、忠実義務とは「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守」する義務(法令遵守義務)を含むと解されるところ、Yによる本件新株発行が第三者への有利発行に当たれば、Yには株主総会決議(201条1項、199条3項、309条12項5号)経ていない点について法令順守義務違反が存することになる。

(2) では、本件新株発行が第三者への有利発行にあたるか。「特に有利な金額」(199条3項)の意義が問題となる。

ここで199条3項が第三者への有利発行を規制しているのは、有利発行により既存株主の有する株式の経済的価値が減少するためであり、「有利な金額」とは公正な払込金額に比して著しく有利な金額をいい、公正な払込金額とは資金調達の目的を達せられる限度で,既存株主にとって最も有利な金額を指す。

そして、公正な払込金額かどうかは、一般の投資家との公正を図る必要があるから、市場価格を基礎にその価格の騰落習性、株式市場の動向などを磯酌して判断される。

(3) 本件新株発行当時、Aの株価は市場価格で1株900円であり、これが公正な払込金額と評価される。しかし、Yは第三者割当の方法により1株700円で発行していることから、公正な払込金額に比して著しく有利な金額と考えられ、「特に有利な金額」に該当する。

(4) したがって、本件新株発行は第三者への有利発行に当たる。

3. 本件において、Yは本件新株発行が第三者への有利発行に当たることを認識しながら、株主総会を開催せずに本件新株発行を決定していることから、Yはその「任務を怠った」といえる。

4. よって、XのYに対する請求は認められる。,

第2.設問(2)

1. XのYに対する取締役の対第三者責任(429条1項)に基づく損害賠償請求は認められるか。

2. かかる請求が認められるためには、①Xが「第三者」であること、②「職務を行うについて悪意又は重大な過失」があること③②により損害が発生したことが必要である。

(1) XはAの株主であることから、「第三者」に株主も含まれるかが問題となるところ、取締役の行為により損害を被っている以上株主を同条の適用から排除する必要はないから、株主も「第三者」にあたるものと解される。

(2) また、「職務を行うについて悪意又は重大な過失」の対象が問題となるところ、429条の責任は株式会社が経済社会において重要な地位を占め、その業務執行が取締役に依存していることから、第三者保護のため一般不法行為責任とは別に法が特に認めた法定責任と解され、悪意・重過失は、任務懈怠について存すれば足りるものと考える。

Yには前述のとおり任務懈怠があり、この任務懈怠についてYは認識があったことから、任務懈怠について少なくとも重過失があったものといえる。

(3) そして、上記任務懈怠の結果、Xは株価下落の損害(間接損害)を受けている。

3. よって、Xの請求は認められる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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