Law Practise 商法 No.16:違法な自己株式取得の効力

No.16:違法な自己株式取得の効力

 

第1.設問(1)

1. Yは、Xに対し本件自己株式取得の無効主張をなしうるか。

2. 特定の株主からの自己株式の取得には、①株主総会の特別決議(160条1項、309条2項2号)及び②株主への通知(160条2項)が必要であるところ、X取締役会は株主Aに対して通知をすることを怠っており、本件自己株式の取得は160条2項に違反する。

3. では、取得手続規制に違反する自己株式の取得は有効か。

(1) 自己株式取得規制の趣旨は、①実質的に出資を払い戻すのと同様であるから会社の財産的基礎を損なうことになること、②会社経営者は自己の会社についての秘密情報も当然知っているから、株式取引の公正を害するおそれがあること(インサイダー取引の可能性)、③一部の株主のみから株式を優先的に買い取る場合に株主平等原則に反するおそれがあること、そして、④自己株式には議決権がないため、議決権の数を調整して取締役等が会社を支配し、会社支配の公正を害するおそれがあることである。

(2) 上記規制の趣旨からすれば規制に違反して自己株式の取得が行われた場合には,会社の利害関係人全てに悪影響が及ぶことになりかねない

したがって、取得手続規制に違反する自己株式取得は原則として無効である。

しかし、取得手続規制の違反があることを譲渡人が知らない場合にまで無効とすると,取引の安全を著しく害することになるから、譲渡人が取得手続規制の違反について善意ならば,会社は譲渡人に対し無効を主張できないと解すべきである。

4. よって、Xが取得手続規制の違反について善意ならばY社はXに対し無効を主張できないが、Xが悪意ならば原則通り無効となる。

第2.設問(2)

1. XのYに対する自己株式取得の無効を前提とした株式の引受請求は認められるか。

2.取締役会設置会社は取締役会の決議によって、市場取引等により自己株式を取得する場合、その旨の定款の定めが必要であるところ(165条2項)、Y社は定款に前記のような規定がないにもかかわらず、取締役会の決議により自己株式を取得しており、165条2項に違反する。

3. では、Xによる無効主張はなしうるか。

(1) 無効主張である以上、原則として誰でも主張しうる。

(2) しかし、自己株式取得規制の趣旨は実質的に出資を払い戻すのと同様であるから会社の財産的基礎を損なうことを防ぎ、会社、会社債権者および一般株主の利益を保護することにあるから、無効の主張は原則として会社側のみに認められるのが相当である。

(3) 自己株式取得規制違反による無効を主張できるのは会社側の者に限られ、譲渡人は無効主張できないと解する。

4. よって、Xの引受請求は認められない。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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