Law Practise 民事訴訟法 発展問題6:引換給付判決と処分権主義

第1.設問(ⅰ)

1. 処分権主義とは、訴訟手続の開始・審判対象の特定・訴訟の終結などについて当事者の自主的判断に委ねる建前であり、その趣旨は、①訴訟外では私的自治の原則が妥当するところ、私的紛争の公権的解決手段たる民事訴訟法上でも当事者の意思を尊重すべく認められることおよび(私的自治原則の訴訟手続への反映)②両当事者に対する不意打ち防止に求められる。

2. 上記のことから、被告に対して攻撃防御の対象を明らかにするため、審理において、当事者の申立事項以外の審理は許されないことになる。

3. また、裁判所は、当事者が申し立てていない事項について判決をすることができない(246条)とされるところ、判決事項が申立事項の範囲内である限り、246条に反しない。

(1) では、原告の申立額を超える立退料の支払と引換えに明渡請求を認容する判決(一部認容判決)は、申立事項と一致していないとして、246条違反とならないか。

(2) 前述の処分権主義の趣旨から、①原告の意思に合致し、②被告の不意打ちにならない場合には、質的一部認容判決として許容されると解される。

(3) 原告は立退料の支払を前提に建物の明渡しを請求しているところ、原告の請求を全部棄却するよりも立退料の増額の程度いかんによっては原告の意思に合致し、被告はより多くの立退料を得ることができるから被告への不意打ちとはならない

(4) したがって、裁判所の釈明(149)等により2000万円以上は絶対に支払わないという原告の意思が明らかな場合は格別、判決は246条に違反しない

3.よって、原告の意思に明らかに反しない限り、裁判所は3000万円の立退料の支払いと引換えに認容判決をなしうる。(cf.最判昭46・11・25民集25-8-1343)

第2.設問(ⅱ)

1.では、裁判所は、原告の申立額を下回る立退料の支払と引換えに明渡請求を認容する判決をなしうるか。

申立事項と一致していないことから、246条違反とならないかが問題となる。

2. 原告の申立事項は、4000万円の支払いを自認していることから、審判対象は4000万を超える立退料支払いの要否であり、3000万円は申立事項の範囲外となる。

3. よって、上記の判決は246条に違反する。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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