Law Practise 商法 No.12:名義書換の未了

第1.設問(1)

1. Aは、Y社に対し、本件割当撤回の無効を主張し、株式の交付請求は認められるか。

2. Aは、自己の株式をBに譲渡しており、株主名簿の名義書換は未了である。そこで、AがY社に対し、株主の地位を対抗しうるかが問題となる。

(1)  Y社は株券発行会社であり、株式の譲渡は株主名簿に記載しなければ会社に対抗することはできない(130条1項・2項)とされている。しかし、130条は,株式会社には多数の株主が存在し、かつ、その変動が絶えず予定されていることから、株主名簿に記載がなければ会社に株主であることを対抗し得ないこととして、会社の事務処理上の便宜をはかる規定である。

とすれば、かかる便宜を享受する前提として、正当な権利者から名義書換の請求があった場合には,会社は遅滞なく応ずることが予定されているというべきであり,かかる前提を欠く場合にはかかる便宜を享受することを認めるべきではない。

したがって、正当な権利者からの名義書換を会社が正当な理由なく拒絶したり、不当に遅滞した場合、会社は名義書換のないことを理由としてその譲渡を否認することができない。

(2) 本件において、Bへの, 名義書換がなされなかったのは、Y社担当者の過失によるものであり、これに正当な理由がない以上、会社は名義書換のないことを理由としてその譲渡を否認することはできない。

(3) よって、Bは自己が株式の譲受人であることを会社に対抗でき、その反射としてAは株主の地位を失う。

3. 以上から、Aの株式交付請求は認められない。

第2.設問(2)

1.提訴の可否

(1) Eは、名簿上の株主Cに対して招集通知が発せられなかったことが招集手続の法令違反(831条1項1号)にあたるとして株主総会決議取消訴訟を提起しうるか。

(2) Eに招集通知漏れはなく,Eの権利が直接害されたわけではないことから、Eの原告適格の有無が問題となる。

この点、①株主にも会社運営の適正化を監視する役割が期待されていること、②条文上、「自らの」招集手続に法令,定款違反がある場合と限定されていないことから、自らについては手続的暇疵のない株主も決議取消しの訴えを提起できると解すべきである。

(3) よって、Eに原告適格が認められ、株主総会決議取消しの訴えを提起できる。

2.請求の当否

(1) 株式の譲渡は株主名簿に記載しなければ会社に対抗することはできないとされるところ(130条1項・2項)、本件では、名義書換未了のDを会社が株主として扱ったことの当否が問題となる。

(2) この点、①130条は会社と株主との関係を集団的・画一的に処理する会社の事務処理上の便宣を図ることをその趣旨とし、②「対抗することができない」(130条1項)とあることから名義書換は対抗要件にすぎないものと解される。

したがって、会社から自己の危険において譲受人を株主として扱い、権利行使を認めることは可能であり、会社がCに召集通知を発しない点に違法はない

(3)以上から、Eの請求は認められない

第3.設問(3)

1. Gは、Y社株主総会における本件決議の取消訴訟(831条1項)を提起しうるか。

2. Gは、Fから株式の譲渡を受け、その仮名であるHで名義書換をしているところ、これが「氏名」(130条1項)にあたり、有効な名義書換といえるかが問題となる。

(1) ここで、「氏名」とは、本名をいい、株主が自己の氏名としてこれと異なる氏名を長期間にわたり一般的に使用し、社会生活上それが当該株主の氏名として一般的に通用している場合に限り、その通称もここにいう氏名に当たるものと解すべきである。

(2) Hは、Gの仮名書きであるとはいえ、本名ではない以上原則として「氏名」にあたらない

(3) したがって、有効な名義書換があったとはいえない。

3. その結果、Gは名義書換未了株主となることから、その原告適格の有無が問題となる。

(1) 130条1項の趣旨は、会社の事務処理上の便宣を図ることにある。そして、その事務とは日常的に反復継続される事務を指すものと解すべきである。

(2) しかし、訴訟は日常的に反復継続される事務ではなく、原告適格を肯定しても、130条1項の趣旨を没却するものでない。

(3) したがって、Gは実質的株主であり、原告適格が肯定される。

3. 以上から、Gは、本件決議の取消訴訟を提起しうる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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