Law Practise 商法 No.11:利益供与

第1.設問(1)

1. Xは、A社より利益供与を受けた筆頭株主Zの議決権行使により成立した本件決議に「株主総会等の…決議の方法」の法令違反(831条1項1号)にあたるとして、株主総会等の決議の取消しの訴えを提起することが考えられる。

  以下、法令違反の有無について検討する。

2.法令違反の有無

(1) 会社法120条1項は、会社が「株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与」をすることを禁じる。

(2) Y1らは、Zが金融機関に有する10億円の債務を肩代わりすることを条件に株主総会において会社提案に賛成することの約束しており、「株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与」したものといえる。

(3) したがって、本件決議には120条1項違反の法令違反が存する。

3. よって、Xは、株主総会等の決議の取消しの訴えを提起しうる。

第2.設問(2)

1.Y1に対する請求

(1) Xは、Y1らに対し責任追求の訴え(847条1項・5項)によりY1らの任務懈怠責任を追及することが考えられる。かかる訴えは認められるか。

ア. 取締役の任務懈怠があったとして、Y1らはA社に対して損害賠償責任を負わないか(423条1項)。

イ. 取締役は、善管注意義務(330条、民法644条)、忠実義務(355条)を有する。ここで、忠実義務とは「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守」する義務を含む。

   そこで、「任務を怠った」(423条1項)とはこれらの義務に違反することを意味すると解する。

ウ. Y1には上記のように120条1項違反の法令違反があり、法令遵守義務を含む忠実義務に違反し、任務懈怠があったといえる。

エ. よって、Y1らは任務懈怠責任に基づきA社に対して損害賠償責任を負う。

(2)120条4項に基づく支払請求

上記のとおり、A社の行った利益供与は120条1項に違反しており、これに関与した取締役Y1らは、Y1がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しない限り(同但書)、A社に対し、連帯して、供与した価額に相当する額の支払義務を負う(120条4項本文)。

(3) 以上から、Xの訴えは認められる。

2.Zに対する請求

(1) Xは、Zらに対し責任追求の訴え(847条1項・5項)を提起し、120条3項の責任を追及することが考えられる。かかる訴えは認められるか。

(2) 上記のとおりZの受けた利益は120条1項違反であり、Zはその利益をA社に返還する義務を負う(120条3項)。

(3)よって、Xの訴えは認められる。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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