Law Practise 民事訴訟法 基本問題8:将来給付の訴え

1. Xは、Yに対し、将来の損害に対する損害賠償請求をなしうるか。この訴えは、口頭弁論終結後に現実化される給付義務を主張するものであり(将来給付の訴え)、①訴えの利益の有無および②原告適格の有無が問題となる。

2.訴えの利益の有無

(1) 将来給付の訴えは、「あらかじめその請求をする必要がある場合」(135条)に訴えの利益が認められる。そして、「あらかじめその請求をする必要のある場合」とは、給付義務の性質、義務者の態度などを考慮して個別具体的に判断すべきである。

(2) 本件において、①給付義務の性質は継続的不法行為に基づく損害賠償請求権であり、継続的に発生する給付義務である。また、②義務者の態度としては、今後被害を出さなくなることは期待しがたい状況にあるといえる。

(3) したがって、「あらかじめその請求をする必要のある場合」にあたり、訴えの利益は肯定される。

3.Xの原告適格の有無

(1) 原告適格とは、訴訟物たる権利または法律関係について当事者として訴訟を追行し本案判決を求めることができる資格のことである。

(2) そして、将来の不法行為はその成否が不確定であり、容易に損害賠償請求を認めると債務者たる被告に請求異議の訴え(民事執行法35)の起訴責任の負担を課するものである。しかし、現に不法行為が存在し、それが将来にわたって継続する蓋然性が高い場合、被害者たる原告を保護する必要性もある。

 そこでこのような原告と被告の利益の調和の見地から、①請求の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されること、②同請求権の成否及びその内容につき、債務者に有利な影響が生じるような将来における事事情の変動が明確に予測しうる事由に限られていること、しかも、③これについては請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当とはいえないことの各要件を満たす場合にのみ、請求適格が認められる。

(3) そこで、本件においては、①Yの不法行為という事実関係が既に存在し、その継続が予測される状況にある。また、③それについてYに請求異議の訴えを提起する負担を課しても、格別不当とはいえない。しかし、②本件のように継続的不法行為の事案では、債務者Yに有利な影響が生じるような将来における事情の変動は予測できない。

(4) したがって、原告適格は否定される。

4. よって、Xの訴えは却下され、損害賠償請求はなしえない。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第2版〕

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