Law Practise 商法 No.7:相続による株式の準共有

第1.設問(1)

1.株主総会決議取消訴訟の可否

(1) Xとしては、招集手続きに瑕疵があるとして、株主総会決議取消訴訟(831条1項1号)を提起することが考えられる。

(2) 本件では、株式の共同相続(民法898条)により株式が準共有(同264条)の状態にあるところ、106条は株式の共有者は、株式についての権利を行使する者一人を定め、会社に対し、その者の氏名等を通知しなければ、株式についての権利を行使することができないとする。

 そこで、「株式についての権利」の内容とその行使の可否(原告適格の有無)が問題となる。

 ここで、「株式についての権利」とは、株主から生ずるすべての権利と解すべきであり、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権(1051項参照)のみならず、総会決議の取消しまたは無効・不存在を訴える権利を含むと解される。

 そして、株式は「所有権以外の財産権」(民法264条)であり、本件株式は準共有の状態にある。

 したがって、「共有物の管理に関する事項」は「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」ことから(民法252条)、権利行使者を定めるにあたっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができるものと解される(過半数説・最判平9・1・28判時1599-139)。

(3) 本件では、準共有の状態にある本件株式について、遺産協議が難航し、権利行使者を定めていない。しかし、Xの法定相続分は4分の3 であり、共有物の管理に関する事項についてXが自らを権利行使者と定めたものと解される。

(4) よって、Xに原告適格は認められ、株主総会決議取消訴訟を提起しうる。

2.株主総会決議不存在の訴え

株主総会決議取消訴訟の場合と異なり、株主総会が開催されていないにもかかわらず、そこで取締訳選任決議がなされたとするならば、その瑕疵は重大であり、権利行使者の決定なしにXに原告適格を認めるべき特段の事情があるといえる。

よって、Xに原告適格は認められ、株主総会決議不存在訴訟(830条1項)を提起することができる。

第2.設問(2)

1. Xは、会計帳簿の閲覧・謄写請求(433条1項)をなしうるか。

2. 「株式についての権利」(106条)とは、株主から生ずるすべての権利であり、会計帳簿の閲覧・謄写請求権もこれに含まれる。

 また、前述のように、本件株式は準共有(同264条)の状態にあり、「共有物の管理に関する事項」は「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」ことから(民法252条)、権利行使者を定めるにあたっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができるものと解される。

3. 本件では、準共有の状態にある株式について、遺産協議が難航し、権利行使者を定めていない。しかし、Xの法定相続分は4分の3 であり、共有物の管理に関する事項についてXが自らを権利行使者と定めたものと解される。

4. よって、Xは、会計帳簿の閲覧・謄写請求(433条1項)をなしうる。

 

 

 設問(1)と設問(2)は、平成9年判決(上記)と東京高判平13・9・3金判1136-22をベースにすると同じような感じになってしまいます。

 とりあえず、試験用ってことで割り切るなら、これでいいのかな~って思います。

 でも、判例の基準に機械的に従えば、他の相続人の参加や意見陳述の機会などを奪うことになるという点を行使する権利の違いにより配慮する姿勢があった方がいいと思います。

 

Law Practice 商法〔第2版〕

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