Law Practise 商法 No.5:定款に記載のない財産引受けの効力

第1.設問(1)

1. 本件購入契約は、「会社の成立後に財産を譲り受けることを約したもの」(財産引受)であり、定款に記載しなければ効力を生じない(28条2号)

したがって、Xは甲会社の定款にその旨の記載がない限り、Y会社に請求することができないのが原則である。

2. そうであるとしても、Yからの追認があれば本件購入契約を有効となしうるか。追認をするには会社にその処分権があることが必要であるため、会社の処分権の有無が発起人の権限の範囲と関連して問題となる

(1) 会社は定款の作成等を通じて徐々に成立され、その間は権利能力なき社団たる設立中の会社の存在が観念される。

そして、設立中の会社と成立後の会社は実質的に同一といえるから,発起人がその機関としてなした法律行為の効果は設立中の会社に実質的に帰属し、会社の成立により形式的にも会社に帰属する(同一性説)。

(2) 発起人の任務は会社を成立させることにあるから、発起人の権限は会社の設立に法律上、経済上必要な行為に限られ、開業準備行為はこれに含まれない。

もっとも開業準備行為のうち、財産引受けは特に必要性の高いことから定款への記載を要件として、法が特に発起人の権限に含ませたものである。

このことから、定款に記載がない財産引受けは発起人の権限外の行為であり、その行為は設立中の会社には実質的に帰属せず、形式的にも帰属しない。

以上のように、設立中の会社の実質的権利能力の範囲は、発起人の権限により画されるから、そもそも権限外の行為の追認はありえない。

(3) よって、Y会社はAの行為を追認できない。

3. 以上から、本件購入契約は無効であり、追認の余地もないから、Y会社はXの請求を拒絶できる。

第2.設問(2)

1. YのXに対する本件マンションの引渡請求は認められるか。

2. 定款の記載のない財産引受が無効とされるのは、資本充実の原則から会社の保護を目的とするものである。だとすれば、相手方に認める必要ないのではないか。無効主張権者の範囲が問題となる。

しかし、無効の主張は無効の当然の結果であり、財産引き受け契約の当事者いずれもが主張しうると解すべきである(最判昭28・12・3民集7-12-1299)。

3. よって、Xも無効主張することができ、YのXに対する本件マンションの引渡請求はなしえない。

第3.XからAに対する代金支払請求(参考)

会社への請求が認められない場合、XはAに民法117条1項の類推適用により、代金の支払を請求することができる。

なぜなら、権限なき発起人の行為の相手方は,代理人であると信じてこれと契約した相手方と同様の立場にあるから、民法117条1項類推により相手方を保護すべきだからである。